『がんばれ、かえでさんー激闘編ー』その2
『・・・未熟。』

声と同時に室内の明かりが消える。

「かえでさんっ!!さがってっ!!」

かえでを庇い身構える大神の耳に、獣の群れが疾走するような重々しい音が響く。

ドドドドドドドドドド・・・・・・・

「大神くんっ!!後ろは任せてっ!!」

言うや否や、大神の背にかえでが自らの背を合わせる。
常々利用している場所とはいえ、一寸先も見えぬ闇の中では何が起こるかわからない。
とっさに互いの死角を補ったその行動は、かえでの潜った修羅場の数を示していた。

(かえでさん・・・さすがだ。気配に微塵も隙がない!!)

背中越しに感じるかえでの気配に感嘆しながらも、大神は周囲の警戒を怠らない。それは、花組の隊長として数多の戦場を駆け抜けるうち身に付いた、戦士の本能的な動作であった。

・・・・・ダンッ!!

ひときわ大きな音と共に、一筋の閃光が闇を切り裂く。
だがそれが照らし出したのは大神達ではなかった。

「・・・・・あ、あなたはっ!?」

白い光の輪の中に立つその男は、大神達の良く知る人物だった。

「私は愛と美の伝導師、エレガント琴音っ!!
 かえでさんっ!!貴女の「でこつん」には致命的な欠点があるのっ!!それを教えるため私はやって来たのよっ!!
 ・・・って、なに二人とも目線逸らしてるのよっ!!」

そこに立っているのは薔薇組隊長・清流院琴音に間違いなかった。
だが、その身に纏っているのは基本的なデザインこそ以前と同じものの、遥かに高価な生地を用い、金糸銀糸で全身くまなく繊細な刺繍を施した華麗な装束だった。
図案は「薔薇の花園を舞う天使」
さらに、シルクの手袋に覆われた両手に孔雀の羽扇を持ち、濃いサングラスで目元を隠している。
大神達ならずとも、余り関わりあいになりたくない存在がそこにいた。

「・・・ふっ。余りの美しさに直視することも出来ないようね。」

ちがう・・・大神がそう言う前に優雅な動作で琴音が身を翻す。
その背には、大きく

LOVE&BEAUTIFUL

の真紅の文字と、それを捧げもつ半裸の青年の姿が描かれている。その青年はどこか大神に似ていた。

「・・・・・・な!?」
「・・・・・・え゛!?」

立て続けの衝撃に、今度こそ完全に脳の活動が止まった二人に、琴音の声が響く。

「いいこと、かえでさん。貴女の「でこつん」は不完全なの。
 それを自覚せずにこれ以上使うことは、天地人が許してもこの私!!愛と美の伝導師、エレガント琴音が許さないわっ!!」

不完全・・・・・・・・・
ふかんぜん・・・・
ふかん・・・

許さないわ・・・・・
ゆるさない・・・
ゆる・・・

・・・・・・・・・・・・・はっ!!

「どういう意味っ!!たとえ清流院大尉といえど、言っていい事と悪い事がありますっ!!
 それに、何故あなたに私の「でこつん」が不完全だなんてわかるのっ!!」
「・・・・・・ふっ。」

問い詰めるかえでを、軽く受け流す琴音。
そして、ゆっくりと右手を掲げ二本の指を立てる。

「かえでさん、貴女は二つ勘違いをしているわ。
 一つ、ここにいるのは帝国陸軍所属・清流院琴音大尉ではなく、愛と美の伝導師・エレガント琴音。それ以上でも以下でもないわ。
 二つ、私は愛と美の伝導師。愛と美に関することで私の知らない事はないわ。」
「だ・・・だからって、いきなり不完全だなんて・・・。納得できないわっ!!」
「そうですよ!かえでさんの技は完璧ですっ!!」

さらに言いつのる二人に憐れむような微笑を投げかけ、琴音は静かに言葉を紡ぎ出す。

「・・・どうやら口で言っても解らない様ね。
 いいわ。貴女の実力がどれほどのものか思い知らせてあげるっ!!
 出ていらっしゃいっ!!」

パンパンッ!!

手拍子を合図に、廊下側のドアからさらに一人男が入ってくる。
それは・・・

「加山っ!?」
「加山くんっ!?」
「やぁ・・・大神ぃ。かえでさぁん。鍛錬室はいいなぁ・・・・・。はは・・・ははは・・・・・。」

そう言うと加山雄一は、普段と異なるどこか疲れきったような笑いを浮かべる。
よく見るといつものギターではなく、鼓笛隊が使うようなドラムを抱えている。・・・どうやらさっきの音はこれだったらしい。

「か・・・加山!いったいどうしたって言うんだっ!!」
「何があったのっ!!加山くんっ!?」
「大神・・・かえでさん・・・。古人曰く・・・。」
「・・・曰く?」
「曰く・・・
 『君子危うきに近寄らず』
 助けてくれぇ〜〜〜〜っ!大神ぃ〜〜〜〜〜っ!!」
「だぁぁぁ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜っ!!」

あまりの言葉に思わずひっくり返る大神とかえで。

「ちょっとっ!!人聞きの悪いこと言わないでちょうだいっ!!
 貴兄が自分から今夜一晩私の愛の奴隷になるっ、て言ったんじゃないのっ!!」
「あ・・・あいの・・・どれい。
 加山くん・・・あなたまさか・・・。」
「加山・・・お前、そんな趣味が・・・」
「ちっ・・・違うっ!!断じて違うっ!!信じてくれぇ〜〜〜〜〜っ!!」

自分達とは別種の生き物を見るような視線に、慌てて加山が反論する。

「じゃあどうして、この人の手伝いなんかしてるんだ!?」
「・・・大神。人にはどうしても思い出したくないこともある。
 頼む・・・今はこれ以上聞かないでくれ・・・・。」
「加山くん・・・・・。」
「加山・・・・・。」

憔悴しきった加山の姿に言葉をなくす大神とかえで。

「どうやら、話はまとまったようね。
 ではかえでさん。貴女、彼に「でこつん」をやってみなさいな。
 それで全てが解るはずよ。」
「なんだってぇ!?そんなことっ!!」
「おおうっ!?そっ、それわぁぁぁっ!!」

琴音の言葉に驚きの声をあげる大神と加山。だが、その内容は180度異なるものだった。
大神は自分以外の者が「でこつん」されることの不満を、加山は今まで憧れながらも満たされなかった希望が叶うことの喜びを、それぞれの声に込めていた。
そして、かえでは・・・

「わかりました。やって見せれば宜しいんですのね。」
「そうよ。完璧に出来るものなら・・・・ね。」
「そんなっ!!かえでさん何故!?」

驚愕と不信感を露にする大神に、かえでは静かに語りかけた。

「大神くん。これはわたし一人の問題じゃないの。
 あの時の大神くんとわたし。そして、あの場所にいた全ての人の名誉の問題なの。
 だからやるわ、完璧に出来ることを彼に、そしてあなたに見てもらいたいの。」
「かえでさん・・・・・・・・・。」

どんな言葉も届かない堅い決意に満ちたかえでの目に、大神は全ての言葉を失った。
今の大神に出来ることは、ゆっくりと加山の前に歩いてゆくかえでの後ろ姿を見送る事だけだった。

「加山くん・・・・・・。」
「・・・・・かえでさん。」

ふわり。

大神に対してそうするように、かえでの身体から暖かい波動が流れ出す。
一分のためらいもない、流れるような動作でかえでの右手が上がり、そして・・・・・


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