『がんばれ、かえでさんー激闘編ー』その3
・・・つん。

額に触れた指先の感触を、月組隊長加山雄一は冷静に受け止めていた。
ただし、外見だけは・・・

(や、やったぁ〜〜〜〜っ!!
 大神ぃ〜〜っ!!これが、これがかえでさんの「でこつん」なんだなっ!?
 くぅ〜〜〜〜〜〜〜っ!!苦節4年。月組の隊長やってて俺は本っ当に幸せだなぁ〜〜〜〜〜っ!!)

もし他に誰もいなければ、サンバでも踊り出しそうな感激が加山の全身を駆け巡る。
しかし・・・

「・・・そんな!?・・・なぜ!!」

自らの右手を見つめ硬直したかえでの姿に、加山の興奮は急速に冷めてゆく。

(かえでさん?・・・大神!!一体何がどうなってるんだ!?)

内心の疑問を視線に込め大神に問う。それに答え大神は沈痛な表情でゆっくりと首を左右に振る。

(ダメだ・・・加山。
 どこがどうとハッキリ言うことは出来ないが・・・。それはいつもの「でこつん」と何かが違う。)
(そんなぁ・・・。大神ぃ、お前がいつもやってもらってるのはこれじゃないって言うのかぁ!?)
(ああ・・・。俺の時は暖かい何かが流れ込んできていた。
 今の「でこつん」にはそれを・・・感じなかった。)
(・・・・・・俺のせいか?)
(いや、加山じゃないと思う。原因があるとすれば・・・)
(かえでさん!?そんなバカなっ!!)
「・・・ちょっと。あんた達なに二人で踊ってるのよ?」
「「え・・・・。」」

目と目の会話が、いつのまにか海軍式手旗信号になっていた大神と加山に、琴音が呆れ顔で声を掛ける。

「「いやぁ。あははははは〜〜〜〜〜〜っ!!」」

思わず笑ってごまかす二人。それを遮るかのようにかえでが叫ぶ。

「琴音さんっ!!」
「なあに?かえでさん。」
「あなた・・・この事を知っていたのね!!」
「ふふっ・・・。私は愛と美の伝導師。
 そのくらいの事知ってて当然よ〜〜〜〜ん。」
「・・・・・・・・・・。」
「あ、あのぉ。かえでさん、一体何が?」
「そ・・・それは・・・。」

その大神の問いかけに、かえでではなく琴音が答える。

「大神中尉。かえでさんが「でこつん」を会得するため、秘密の特訓を重ねていたこと、貴兄は知っていたわよねぇ。」
「は、はい・・・。
 でも、先日の一件で完璧に会得したはずじゃぁ・・・?」
「そう・・・。外見はね。
 だけどかえでさんは、「でこつん」を貴兄以外の人にすることを全く考えていなかった・・・。
 その結果、彼女の「でこつん」は大神中尉。貴兄以外に通用しない代物になり果てていたのよっ!!」

ビシッ!!

言い放つや、手にした孔雀の羽根扇でかえでを指す。

「あ・・・ああっ!!」

完璧と信じた技の思わぬ欠点を指摘され、かえではその場に崩れ落ちる。

「かえでさんっ!!」
「気をしっかり持ってっ!!」

思わず駆け寄る大神と加山。それに構わず琴音は言葉を続ける。

「いいこと、かえでさん。貴女は帝撃の副指令。その貴女の「でこつん」は誰か一人の物であってはいけないの。
 帝撃に関わる全ての人を優しく、そして暖かく包み込む。
 それが貴女の目指さなくてはならない真実の「でこつん」なの。わかるでしょう?」
「はい・・・。琴音さん・・・。
 でも・・・これからわたし、一体どうすればいいのか・・・。」
「・・・今の貴女は大切なことを見失っているようね。
 いいわ!ついてらっしゃいっ!!貴女に何が欠けているのか、それを見せて差し上げてよっ!!」

そう言い残すと琴音は鍛錬室を出、階段の方向へ向かって歩き出す。
あまりに素早いその動きに、かえで達は慌てて後を追う。
そして、着いた先は・・・

(地下格納庫?こんな所で一体。)

そう、琴音が一同を案内したのは光武を納めている、地下の
格納庫だった。

「琴音さん・・・。ここで何が・・・?」
「シッ!!声が大きいわよっ!!・・・見なさい。」
「え・・・あれは。・・・紅蘭?」

 格納庫の薄闇の中、紅蘭は一人光武と相対していた。
 自らの機体にじっと視線を注ぎ、何事かを語り掛けている。
 その光景の纏った、まるで幼い我が子を慈しむ母のような神聖な雰囲気が、物陰からそれを覗き見るかえで達の言葉を奪った。
 だが、言葉は無くとも疑問は残る。

「一体、なにをやってるのかしら・・・?」
「そうか!?」

 ぽつりと漏らしたかえでの疑問に答えるかのように、大神が小さく抑えた叫びを上げる。

「どうしたの、大神くん?」
「なにか分かったのか!?」
「かえでさん、加山。
 紅蘭は光武を自分の子供のように大切に思っています。」
「ええ、そうね。」
「確かに・・・・・。」
「だから、眠る前にああやって一機づつ声を掛けているんですよ!!
 光武が寂しがらないように。」
「なるほど!!流石だわ大神くん!!」
「伊達に花組の隊長をやってはいないなッ!!」
「いやぁ、それほどでも。
 あははははははははははははははははははははははは。」

 隊員の心理を読み切った見事な解釈に、感嘆の思いを隠し切れないかえでと加山。
 二人の尊敬の眼差しを受け、照れ隠しに締まりのない笑顔を浮かべる大神。
 その姿に溜息をつきながら、琴音は大神の答えを一言のもとに否定した。


「はぁ・・・・・・・。
 よく御覧なさい、あれがそんな生易しいものである筈がないでしょう。」
「えっ!?」

 言われてよく見はしたものの、多少の身振りが加わった以外、紅蘭にこれと言った変化はない。琴音が言うように『生易しくない』理由など、どこにも見あたらない。
 『何か別の意味があるんですか?』
 そう、大神が反論しようとしたまさにその時!!
 『それ』は起こったッ!!

「ええかげんにしなさいッ!!」

 ビシィッ!!

 物陰に隠れたかえで達にもはっきりと聞き分けられる、気合いの入った良く通る声と共に、紅蘭が右手の甲を光武の機体に叩きつける!!
 それは見事な迄に完璧で美しい『ツッコミ』だった!!

「あ・・・・・・あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?」

 かえでの全身に衝撃が走る。
 良く目を凝らして見れば、紅蘭の手が当たった部分の光武の装甲は、気付かない程僅かではあるが確かに歪み窪んでいる。
 一体何万回の『ツッコミ』がそれを可能にするのか、想像しただけで気が遠くなるような、圧倒的な迫力を持った摩耗跡。
 水滴が巨岩を穿つかのような地道な繰り返し。
 だが、それこそが、紅蘭の日々の笑いを支えているのだ!!

「わたし・・・わたし・・・・・。」
「どうやら、気がついたようね。自分に欠けていたものに。」

 目を見開き、呆然と立ち尽くすかえでに琴音が掛けた声。
 その意味が今のかえでには痛い程良く解る。

「はい・・・・・・・琴音さん。
 わたし、『でこつん』ができた事で満足してしまっていました・・・。
 でも、できたと言っても形を真似ただけだったんですね。
 本当に自分のものにする為には毎日の習練が不可欠なのは、『でこつん』も他のものも一緒なのに・・・。
 それを・・・それを忘れてしまうなんてッ!!
 わたしは副指令失格だわッ!!」

 天を仰ぎ慟哭するかえでの前に、そっと手を差し伸べられる琴音の右手。

「かえでさん、貴女は忘れていた大切なものを思い出した。
 それさえ失わなければ、技を磨くのはこれからでも決して遅くはないわ。
 そうでしょう?」
「琴音さん・・・。」

 後悔にひび割れた心を包み込むような、雄大な靭さと優しさを秘めた微笑み。
 それに誘われるかのように、差し出された右手を両手で掴み、かえでは叫んだ、心のままに。

「琴音さん、いいえ・・・先生ッ!! 是非ともわたしに真の『愛と美のでこつん』をお教え下さいッ!!」
「・・・・・・フッ。私の修行は厳しくてよ。」
「望むところですッ!!」
「いいわ、教えて・あ・げ・る♪
 但し、一つだけ条件があるの。」
「条件?何でも仰って下さいッ!!」
「私の事は『先生』ではなく『コーチ』と呼んでちょうだい。」
「はいッ!!コーチッ!!」
「んん、いいお返事ね♪
 さ、明日から早速お稽古を始めるわよ〜〜〜ん♪」
「お願いします、コーチッ!!」

 こうしてかえでは、愛と美の伝導師・エレガント琴音を師と仰ぎ、『でこつん』の真髄を極める為の修行を開始した。

 がんばれ、かえでッ!!

 負けるな、かえでッ!!

 『愛と美のでこつん』をその身に宿すその日までッ!!

 ゆけゆけ我らが帝撃副指令ッ!!

「大神ぃ。
 かえでさんが新しい一歩を踏み出す瞬間に、お前と一緒に立ち会えるなんて、俺はしぃあわせだなぁ〜〜〜〜〜〜〜っ♪」
「・・・・・・・・・加山、俺にはかえでさんが道を踏み外したように見えるんだが。」


(おしまい)
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