「ドッペルゲンガー・前編」【まいどぉさんのSS目次へ】 【書棚TOPへ】 【メインページへ戻る】 |
1. 大上段から降り下ろされた一撃を、大日剣が自らの剣をかざして受け止める。 ゴッ!! 骨まできしむ衝撃に耐えながら、大日剣を操る金剛の口元には、歓喜に満ちた獰猛な笑みが浮かんでいた。 「へへっ!!やるじゃねぇか・・・。だがなっ!!」 一気に霊子機関の出力を上げると、受けた剣ごと相手の機体を突き飛ばし、その勢いを殺すことなく剛刀の一撃を相手に見舞う。 「うおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!」 雄叫びと共に降り下ろされる刀身に、膨大な霊気が集約される。己の身体から吹き出す力を無理やり一点に束ねたそれは、まともな術者が見たならばそのあまりの乱暴さに顔をしかめる事だろう。 だが、単純であるが故にその一撃は強かった。 シンプルであるが故に、何者をも破壊せずにはいられない強靭な力に満ちていた。 金剛という漢そのものを象徴するかのような一撃。 それを・・・ ガッ!! 大日剣と相対した白銀の魔操機兵が受け止めて見せた。 『金剛!!油断するでないぞっ!!』 「わぁってるよ!!」 通信機から響く木喰の声に怒鳴り返しながら、金剛は機体越しに目の前の敵を睨みつける。 そこに立っているのは、丸太のような太い手足を持った大型の魔操機兵。その身を包む装甲の色こそ違え、その能力は他の誰よりも良く知っている。 なぜなら・・・ 金剛の前に立つそれは大日剣に他ならなかったからだ。 2. 「・・・3、・・・2、・・・1、・・・起動。」 木喰の指がスイッチを入れると同時に、霊子機関の重い響きが管制室を揺さぶる。 ヴヴヴヴヴヴヴヴヴヴヴ・・・・・・ 大きく開いた窓の向こうに直立する、白銀の巨体を見つめる金剛の目には、はっきりとした苛立ちと共に微かな不安の色が浮かんでいた。 「おい!!本っ当に大丈夫なんだろうなぁ!?」 「んん?どういう意味じゃ!?」 「おめぇの計算が間違ってねぇかって事だよ!!」 「安心せい!!ワシの計算は完璧じゃぁぁぁぁぁっ!!」 「・・・・本当かよ。」 黒鬼会五行衆の同志として出会って以来、それなりに長い付き合いになるが、木喰の『完璧な計算』を100%信頼するにはまだまだ短すぎた。 確かに幾重にも策を巡らした、金剛にはとても思い付かないような緻密な計画を立てる。だが、決して致命的な物ではないものの、それらには常に幾つかの計算違いがあった。それが木喰の尊大な性格に起因する物なのか、情報の不足による物なのかは分からない。しかし、これから始まる戦いにとって、大きな不安材料であることは間違いない。 (まぁいい。学者なんざ所詮そんなもんよ。 いざとなりゃ、この俺様がケリを付けりゃいいこった。) 五行衆筆頭、ひいては京極慶吾の第一の従者としての、強烈な自負に満ちた視線が再び窓に向けられ・・・。 ふっ・・・と揺らぐ。 そうせざるを得ない物がそこにはあった。 太い腕、太い足、分厚い胸板。 金剛の愛機大日剣と同型の、白銀の魔操機兵。 『不空』と名付けられたそれが、それを用いるこの実験が、金剛の心に抑え切れない不安を呼び起こす。 「なぁ・・・木喰よ。」 「なんじゃ?」 「その・・・や、やま・・・なんとかってぇ少佐・・・。」 「山崎。山崎真之介じゃ。」 「そうそう。こりゃ元はそいつの計画なんだよな?」 「そうじゃ。」 「・・・・・・・・なら、大丈夫か。」 「どういう意味じゃっ!!」 かつて帝国陸軍に一人の天才がいた。 山崎真之助と名乗るその男は、陸軍在籍中に大小様々な発明、発見を成し遂げる。だが、幾つかは世に出されたものの、その殆どは闇に葬られることとなった。 闇に葬られたものの一つがこの『重自動歩兵』だ。 徳川時代の資料から『脇侍』の記述を見いだした彼は、これを研究中の『霊子甲冑』と組み合わせることを考えた。魔力、妖力を弾くシルスウス鋼で身体を覆い、簡易とはいえ自律機能を持ったそれは、降魔をも凌ぐ戦闘兵器となる筈だった。 『降魔戦争』のさ中であった事、当時の技術水準がまだ低かった事等々。様々な要因から実現こそしなかったものの、完成していればその後の歴史は大きく変わっていた事だろう。 (悪りぃな山崎さんよ。あんたの発明、俺達が有効に使わせてもらうぜ・・・。) 今はもういない男に思いを馳せる金剛の耳に、突然木喰の悲鳴が飛び込んで来た。 「ぬぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!?」 「なっ、なんだっ!?どうしたぁっ!!」 「ワシとしたことが・・・・・。」 「なんだよ・・・・・・。」 「敵味方の識別装置を付け忘れとったぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」 「馬鹿野郎ぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!」 ブオンッ!! 二人の叫びが合図となったのか、不空の『目』に赤光が灯ると同時に、右腕が唸りをあげて管制室に叩き込まれる。 ズガガガガガガガガガガッ!! 「ぬぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」 「うひょあぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」 奇妙な叫び声をあげながら床に転がった二人を数瞬見つめた後、不意に身を翻すと不空は実験室のシャッターをこじ開け、地底に広がる黒鬼会本部の奥へと歩き出した。 「なっ、なんだぁ!?何で行っちまうんだ!?」 「・・・おそらくワシ等の無様な姿に、戦う価値がないと判断したのじゃろう。」 「・・・・・ンだとぉ。」 「あ奴は『敵』を・・・、強い敵を求めておる!! このままでは本部全てを破壊しかねんぞ!!」 『強い敵を求める』その言葉に、金剛の血が燃え上がった。 「・・・・・ざけやがって。 木喰っ!!あいつは俺が片付ける!!テメェは手ぇ出すんじゃねぇぞっ!!」 「むぅぅぅぅっ。 わかった、じゃが金剛、気を付けるんじゃぞ。霊的な力こそ劣るものの、人が乗っとらん分、機体の性能はお主の大日剣より上じゃ。 見くびると火傷では済まんぞ!!」 「おもしれぇ・・・。 その方がこっちも気合いが入るってもんだぜっ!!」 一声叫ぶと金剛は不空に向かって走り出した。 一気に間合いを詰め、金剛用に簡略化された召還の呪文を唱える。 「出ろぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!! だいっ!にちっ!けぇえぇぇぇぇぇぇぇぇぇんっ!!」 オォォォォォォォォォォォォォォォッ!! 激しい稲光と共に、霊子機関の爆音をまるで雄叫びのように轟かせながら、金色の機体が現れる。 「いくぜっ!!相棒っ!!」 すぐさま飛び乗りハッチを閉じると、すぐ目の前に白銀の機体が迫っていた。猛烈な勢いで降り下ろされる相手の剣に、自らの剣を叩き付け弾き返す。 ガッギィィィィィンッ!! 周囲の空気を震わし轟音が鳴り響く。 それがゴングの代わりだ。 金と銀。 大日剣と不空。 同じ姿をした者同士の闘いが、今始まった。 3. ガンッ!!ゴッ!!ギシャァッ!! 鋼と鋼のぶつかり合う音を響かせながら、二体の魔操機兵が黒鬼会本部を駆け抜ける。嵐が荒れ狂うようなその闘いに巻き込まれた物は、瞬時に原型を止めぬほどに破壊されてしまう。 激しい攻防を繰り返しながら、金剛の胸の中には徐々にある疑惑が育ちつつあった。 互いの剣をぶつけ合った瞬間、さらに一歩踏み込み左の拳を叩き込む。 ガンッ!! 「なんだってんだよっ!!こりゃぁっ!?」 渾身の力を込めたそれと同じものが、同時に相手からも繰り出され、互いの身体に突き刺さる。 闘い始めてから今まで、これと同じ事が何度も繰り返されていた。 拳と拳。剣と剣。脚と脚。 先読みをしたのでも、相手に合わせたのでもない。闘いの局面ごとに金剛の選んだものと全く同じ選択肢を、不空も選んでいた。 それはまるで・・・ 『金剛っ!!そやつにはオヌシの行動パターンを記憶させておるんじゃっ!!』 「ンだとぉっ!?」 突然通信機から響いた木喰の声。それに反射的に怒鳴り返しながら、相手をもう一度良く観察する。その動き、その発想、言われてみれば確かにそれは金剛そのものだ。 試しに予備動作抜きで剣を叩き衝けてみる。 ゴキッ!! 全く同時に互いの左肩の装甲を削りあう。 「なるほど・・・納得いったぜ。」 そう呟く口元には獰猛な、しかし、惚れ惚れするような笑みが浮かぶ。言葉には出さずとも、その表情が今の金剛の気持ちを代弁していた。即ち・・・ (おもしれぇっ!!) ガゴッ!! 「ぐはぁっ!?」 一瞬気を逸らした隙に襲いかかった横殴りの一撃が、金剛の機体を地面に這わせる。さらに追い打ちをかけようとする不空の片足を左手で掴み、そのまま立ち上がると、渾身の力を込めて身体ごと相手を振り回す。 「うぅおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!」 一回転・・・。二回転・・・。 「ひぃぃぃっさぁぁぁつっ!!」 自分と同じ重量の機体を、片手一本で振り回しながら、足元の地面に霊気を流す。 「大っ噴火投げぇぇぇぇぇぇぇぇっ!!」 土生金。 五行の法術によって地中の金属成分を無理やりかき集め、鋼鉄以上の強度を持ったそこに相手を叩きつける。 ドゴガガガガガガガガガガガガァァァッ!! まさに火山が爆発したかのような轟音を伴って、砕け散った瓦礫の山に不空が姿を消した。 「どぅでぇっ!!」 拳を突き上げ雄叫びをあげる金剛。 だが安心するのはまだ早い。 バガァッ!! 土砂を跳ね除け立ち上がった白銀の機体。 「な・・・!?」 それに掠り傷以上の損傷が無いことを見、金剛の顔が驚きに歪む。その隙を逃さず、不空が独楽のように回転し始めた。 「なんだとぉぉぉぉぉっ!?」 知っている。金剛はその技を知っている。 『金剛回身撃・・・』 淡々と、脇侍と同じ声音で、金剛の良く知る技の名を呟く。 金剛自らが編み出した技の名を!! 「ちいぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃっ!!」 とっさに両腕を交差し、全身の霊気を凝縮して防御を固める。それに遅れること一刹那、金剛石・・・ダイヤモンドに匹敵する強度を持ったその身体に、剣を水平に突き出しながら不空がぶつかって来た。 ガガガガガガガガガガガガガッ!! 高速回転によって生み出される剛刀の連撃が、大日剣を激しく揺さぶる。 「ぬ、がぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」 連撃のあまりの圧力に、さしもの金剛も大日剣の姿勢を維持できない。一瞬バランスを崩した所へ、さらなる攻撃が襲いかかった。 ズンッ!! 大きく一歩踏み出し下半身を強引に固定すると、回転で生み出した力の全てを剣に込め、下から掬い上げるような一撃を放つ。 「ンなろぉっ!!」 ガギィィィィンッ!! その技を創り上げた金剛だからこそ、それを防ぐことが出来た。だが、不安定な体勢で受けた為、剣の勢いに負け大きく跳ね飛ばされてしまう。体を捻ってなんとか足から着地したものの、十数mの距離を吹き飛ばされた余波に耐え切れず片膝をつく。 「へへっ・・・。なるほど、技も使えるのか・・・。 木喰の奴おもしれぇモン造りやがって・・・よっ!!」 一挙動で立ち上がり、振り向きざま剣を正眼に構える。 モニター越しに正面を睨むと、もうもうと舞う土ぼこりの向こうに、同じく剣を正眼に構えた不空の姿が霞んで見える。 「・・・やっぱそうするよなぁ。『俺』ならよっ!!」 身体の奥底から涌き出る歓喜。 本来ならありえない筈の『自分との戦い』に、金剛の戦士の本能が更に熱く燃え上がる。 「必ぃっ・・・殺っ・・・!!」 正眼に構えた剣に、ありったけの霊気を注ぎ込む。 『金剛・・・』 ほぼ同時に、いかに強力な機体であると言っても、脇侍の一種に過ぎない筈の不空から、金剛のそれに勝るとも劣らない凄絶な霊気が吹き上がった。 「『・・・一直線ッ!!」』 轟ッ!! 合わせ鏡のように同じ技を放つ二人。 大気を引き裂き、大地を砕き、刀身から展開された霊子障壁を身に纏い、相手を目掛けて文字通り一直線に突進する。 ガッギィィィィィィィィッ!! 凄まじい爆音を伴って、二人の鋼の巨人が真っ正面から激突した。 しかし・・・両者の技の威力はほぼ互角。ゆえにぶつかった瞬間、霊子障壁の生み出す数十cmの空間を挟み、双方の動きが止まる。 「ぬ・・・がぁっ!!」 『・・・抹・・殺!!』 互いに相手を押し潰さんと、機体の出力をあげ、ぎしぎしと霊子障壁をきしませながら、少しづつにじり寄る。 1cm・・・。また1cm・・・。 その恐るべき力比べによって、二人に挟まれた空間が徐々に歪んでゆく。双方の剣が触れ合わんとしたまさにその時、極大に達した空間の歪みが、凄まじい反発力をもって二機の魔操機兵をはね飛ばした。 |
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