霊力を持ち、かつその力を知っている少年、高原葉次郎。
加山の加護の元、迫る危険を知らずに過ごしていた。

しかし、ある日、東弥介とすれ違い、そして密かに心寄せる高村椿と共に歩く姿を見てショックを受ける。
一応は単なる買出しであったのだが、それを知る由は彼には無い。
本来はやや凡庸とした少年であったが、弥介の生身の戦いを見て、それにも負けぬ強さを求めだす。
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!!体験入隊前夜
第4話「妖邪」



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「なんか・・・眠れないや。」

昨夜の光景が何度も頭をぐるぐる巡り、寝入ったつもりが何度も目が覚めてしまう。
弥介くんほどの、いや、それをも上回る強さが欲しい。
そう思うと、ますます寝ていられなくなり、竹刀を持って中庭に出る。
それほど広くは無いが、竹刀を振る空間くらいは有った。

どれほど経ったのだろう、全身を滝のように流れる汗が目に染みてふと我に返る。
瞬間、全身の力が抜けて地面に腰を落としてしまう。
そのまま横になって、夜空を見上げて見る。体は疲弊しているが意識は冴えたまま。

気がつくと夜が明けつつある。葉次郎は、仕度を整えて道場へ向かおうとした。
家を出ようとする直前、母親の菜理がそれを見かけ呼び止めた。

「あら、葉次郎、もう道場へ行くの?朝御飯くらい食べて行きなさい。」
「あ、母様・・・。ごめんなさい、今日はちょっと・・・。」
「どこか具合が悪いの?」
「いえ・・・いたって健康です。ただ1秒でも多く体を動かしていたくて。」
「でもね、ちゃんと食べないと強くなれないわよ?」

菜理はいたずらっぽく言ったが、葉次郎は真剣な表情でうなずいた。
いつもなら笑顔で軽口を言うのだが、と菜理は疑問に感じた。
だが、時期も時期、きっと恋でもして強さを見せたいのかしらと考えて見た。
夢中で朝飯を食べる葉次郎に、一言だけ言って見せた。

「強さってね、表面に出てくるものだけじゃないと思うわよ?」
「ええ・・・分かってるつもりです。」
「なら良いわ。もし思いが実ったならウチに遊びに連れていらっしゃいな。」
「ぶっ!なっ、そんなんじゃないですよ!!」

どうも図星だったようで、菜理は思わず笑いをかみ殺していた。
葉次郎はと言うと、すべて見透かされている気がしてその場から離れたくなった。
急いで残る御飯を食べると、席を立った。



朝も早い道場にはまだ人の姿は無かった。
母屋と離れているここは比較的自由に出入りが可能だった。
まだ暗い道場の中で素振りを繰り返す葉次郎。
その竹刀の先には弥介が浮かんで来て思わず手を止めた。

「ボクは・・・弥介くんが憎いのか?」

越えたい、と言う気持ちの中に憎しみがあるのだろうか。
そのまま手が止まり、思案していると起きてきた師範代が声をかけた。

「おぅ、葉次郎か。どうした、今日は随分早いじゃないか。」
「ええ・・・どうやったら強くなれますか?」
「ほぉ、どうしたぃ?惚れた娘でも出来たのかい?」
「ちっ、ちが・・」
「ま、それはともかく、その気にさえなれば道も開けるってモンだ。待ってな、支度してくる。」

程なく、師範代が防具を着け道場に入ってくる。
どこか嬉しそうな表情に面を付け、葉次郎と対峙する。

「よぅし、始めるとするか。」
「はいっ!」

夢中でかかって行く葉次郎だが、あっさりと流され篭手を打たれる。
ニ撃目も竹刀を掃われて面にキツイ一撃を打たれた。

「がむしゃらに突っ込むんじゃ、山の猪だぜ。もっと相手を良く見ろ。」
「は、はい!」

その後は、ややまともに打ち合いが続く。
当然互角とは言えるべくも無い。しかし、決して引かずに竹刀を向けてかかって行く。
師範代が休憩をしよう、と言っても一向に聞かなかった。
さすがに、これには困ったらしく、仕方なく手加減無しに一撃打ちこんだ。
先程の面打ちより更に厳しい一撃。これは葉次郎も堪らなかった。

しかし、倒れこんでなお、何かを呟く葉次郎に師範代は言った。

「おめぇ、剣の道をなんだと思っているんだ?そんな短時間で会得できるほど甘くねぇぞ?
 何のために強さを求めているのか分からんが、その辺にしとけ。」

師範代の言う事はもっともだった。それほど短時間で凌駕出来るようなものでは無い。
そこへ他の塾生たちがやってきた。
ひとまず特別練習はお開きとなり、通常の稽古が始まった。
しかし、一人気を吐く葉次郎は道場の中でも少し浮いていた。

「葉次郎、先刻も言ったが、少し休んだらどうだ?体を壊しちゃ洒落にならんぞ。」
「はい・・・」

しかし、手を休めない。
組むものが居なくとも、相手を想定し、足を動かし竹刀を振るった。

「葉次郎ォッ!!」

一喝され、動きを止める葉次郎。あきらかに嫌そうに竹刀をおろした。



同時刻ごろ。
日本橋の黒之巣会旧本部から金色の天雷が大量の脇侍を伴って出現した。
月組隊員よりその知らせを受けた加山は即座に現場に急行しようとした。

「少年たちが消えた理由はこのためだったか。ともかく民間人の避難だな。よし、行こう!」
「はっ!」
「だが・・・・何か嫌な予感がするな。東山、すまんが、あの少年の監視を続けてくれ。」
「了解です!」



天雷の出現場所からそう遠くない道場にも、一般人に扮した別の月組隊員から怪蒸気出現の報が入っていた。
軍が食い止めていると言う話もあったが、大事を取って今日の稽古は終了となった。
やや不服そうながら葉次郎も帰宅の用意をし、家路についた。

「そんなに大袈裟にしなくたって、華撃団が怪蒸気をやっつけてくれるじゃないか。」

まさか彼も華撃団が高尾山に居るとは思わなかった。
そして、弥介が人知れず光武に乗って戦っている事も知らない。

「よぉ、葉次郎くんじゃないか。どうした?」
「あ、田中さん。」

何故か日本橋に向かったはずの加山が姿を見せた。
それを知らない葉次郎は怪しみもせず、さっきまでの話をして見せた。
怪しむよりも誰かに話を聞いてもらいたい気持ちが上回っていたのもある。

「ふむ・・・そうだよな、男ってのはすべてを打ち破るくらいの力を目指すべきだな。」
「・・・え?」
「目標は高い方が良いって事さ。改めて聞くが、強さが欲しいかい?」
「ええ、もちろんですよ!!」
「よし、じゃあオレと行こう。連れて行きたい場所があるんだ。」
「はいっ!!」

連れ立って、加山と葉次郎は歩き出した。
その後ろ、路地から東山が這い出してくる。

「ダメだ、葉・・次郎くん。そいつは、くっ!た、隊長に知らせ・・・ないと・・」

しかし、それは彼の耳には届いていなかった。
加山に連れられて後をついていく葉次郎。

「ところで田中さん、どこへ行くんですか?他の道場に心当たりがあるとか?」
「いや、剣だとかそう言う物を超越したところさ。その角で良いかな?」
「そこの角・・・ですか?」
「ああ・・・そうさ・・・」

促されて路地に入った途端、加山『だった』ものから禍禍しい気が溢れ出した。
それに気がついて路地から飛び出そうとするが、路地からは飛び出す事が出来なくなっていた。
加山だったものは姿を変えた、いや戻した、と言うべきか。
灰色をした長髪に痩せた長身。服もいつのまにか青い装束に変わっている。

「へっへっへっ、そう嫌ってくれるなよ。どっちみち、この空間には結界が張ってあるがな。」
「貴方は誰なんです?」
「オレか?オレは蒼哭の風牙って言うのさ。それより力が欲しいんだろう?」
「えっ、ええ、まぁ・・・」
「手に入るぜ?でっかい強い力がよぉ。それも簡単にだ。その可能性をお前も持ってるんだぜ?」
「可能性が・・・ボクにも?」

葉次郎は強さが手に入る、と言われてつい話に聞き入ってしまった。
それだけでなく、風牙も妖術を駆使して葉次郎を取りこもうとしていたのだが。

「そうだ・・・お前は元々でっかい力を秘めてるのさ。霊力と言うなぁ。」
「霊力?霊力は強さの源なんですか?」
「違うな、霊力だけじゃダメだ。霊力を変換するのさ、そう・・・妖力にな!」

鬼気迫る風牙の表情。
だがその危うさも今の葉次郎には理解できていなかった。
その体の周りを邪気が覆い尽くそうとしていた。

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□次回予告□
ちゃらーらーらーらーらーちゃっちゃーーーん♪(予告音楽だと思いねぇ)


敵の手に落ちてしまった葉次郎。
果たして加山の助けは間に合うのか?


次回「檄!体験入隊前夜」
 第五話「別離」

太正櫻に浪漫の嵐!!

葉次郎「どうしても行くんですか?」

ちゃらっちゃちゃ、ちゃちゃん♪

第五話「別離」へ
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