ある一定以上の霊力を持つ少年、高原葉次郎。
彼は賢人機関胆入りの帝都健診によってその存在を見出され、月組の保護下にあった。

が、黒之巣会の生き残り『金色の天雷』の出現により、警護の手が薄れたところを
もう一人の生き残り、『蒼哭の風牙』によって連れ去られてしまう。
果たして、このまま彼は悪の手先となってしまうのだろうか?

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!!体験入隊前夜
第5話「別離」



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日本橋。
逃げる人々の誘導をしながら弥介の戦い振りを見つめる加山がそこに居た。
通信を傍受して天雷とのやり取りを聞くと、なかなかどうして、舌戦に長けている。
感心していると、副隊長の宍戸が駆けつけて来た。

「東山から連絡があったそうだ。例の少年が連れ去られたらしい。」
「何だと!?」
「ここは引き受ける。隊長は少年の方を!!」
「まさか、まだ残党が居たとはな。オレとした事が・・。月影!月読!同行してくれ!」
「はい!」
「はーーいっ♪」

呼ばれて登場する黒髪黒装束の女性と、まだ幼い盲目の少女。
共に月組の隊員である。詳しくは根悪土蜘蛛之巣会HPのSS倉庫へ。

「・・・間に合ってくれっ!!」

振り絞るように呟きながら加山は走り出した。




やはり日本橋では有るのだが、桶町の道場のそば。
路地の一角に作られた異空間に風牙と葉次郎は居た。

「妖力ってのは欲望に比例して拡大する。そうだ、純粋に自分の為だけに行使する分、
 妖力の方が強い力を発揮できるって訳さ。」

もっともらしい理論で妖力の優位性を語る風牙。
更に得意げに続けた。

「そこでだ!!オレと組まねぇか?一緒にこの帝都すべてをぶっ壊して思うように作りなおすのさ!
 邪魔なモンは壊す!!邪魔な奴は消す!やろうぜ、オレとお前で。どうだ、なぁ?」
「・・はぁ・・・」
「ノリが悪りぃなぁ?金も女も思いのままだぜ!!素敵だと思わねぇか?惚れてる娘ぐらい居んだろ?」

そう言われて、葉次郎の脳裏に一人の少女が思い浮かぶ。
しかし、必死に打ち消して言葉を続ける。

「い、いませんよ。それに邪魔、と言うか障害は乗り越えてこそ意味があるんじゃないですか?」
「ハッ、生意気言うねぇ。そんな暢気なこっちゃ、あの娘はあいつになびいちまうぜ?」
「あの娘?何の事です?」
「とぼけるなって。帝劇のそばかすの売り子にご執心じゃねぇのかぁ?
 ま、顔にそう書いてあるがな。クカカカカカ!!」

蒼哭、と言う字名にも有るように、風牙は蒼き刹那を心酔し師事を受けていた。
情報戦や人の心を読む事に付いては他より長けるものがあった。

「で、どうよ?良いのかよ、このままで。えぇ?」
「い、良いも悪いも無いです!弥介くんはボクの友達ですっ!」
「強がるねぇ・・・ロクにあった事も無いような奴を友達、とまで言うかよ。」
「なら、これからなって見せます。同じ力を持ってるんだ、きっと分かり合える!」
「同じ力ねぇ・・・でもよ、奴は泥棒だぜ?」

「・・!嘘だ!嘘に決まってる!!」

「嘘じゃねぇさ。それで、お前はその人様の物をかっぱらって生きてる奴と友達だと言う。
 って事はだぜ?こっち側の人間だろ。あいつもお前も。」


執拗に葉次郎を追い詰めようとする風牙。
全くの嘘では無いそのブラフは、それを真実だと思わせるに十分だった。
言葉を失ってしまう葉次郎。


「さあ、腹は決まったよな?オレと組もうぜ?あいつだって同じ事やってるんだしよぉ?」
「・・・・」
「んん?どうしたぁ?元気良く答えようぜ、青少年?」

「嫌だ!!絶対に・・・絶対に断る!!」

正直、迷いながらも、葉次郎は大声で言った。
風牙の表情が醜く歪む。

「ほぉ・・・立派なもんだ。だが、そう言うの・・・大嫌いだぜ?
「ぐああっ!!」

今度は葉次郎の顔が苦痛に歪む。
風牙の妖力がその体を捉え締め上げたのだ。

「ぐああっ、ううっ・・・・」
「お前自身の意思でハイと言わせたかったんだがな。ちょっと手荒にさせてもらうぜぇ?」
「う・・・ぐぅぅぅっ!」
「苦しいだろ?ハイって言えば開放してやるぜ。それともそのまま死ぬか?」


息もおぼつかない葉次郎の口が開く。
そして、かすかに言った。

「・・・・・・は、はい・・」

「クックック、待ってたぜ、その一言をよ?」

風牙が嬉々として、その妖力を弱めようとする。
しかし葉次郎の言葉はそこでは終わらなかった。


「・・・・なんて・・・・絶対に・・・言ってやらない!」
「ヘっ、そうかよ。正直残念だなぁ。でも使えねぇならここまでだ。ホント、短い付き合いだったな。」
「ぐああああっ!!」

妖力ではなく、その自らの腕で葉次郎を締め上げる。
華奢な風体をしている割に、想像を超える力でぎりぎりとその喉元に手が食いこんで行く。


「アバヨ、葉次郎くん。クカカカカカカカカカカ!!」

その瞬間、空気を切り裂き、風牙の手元に古代文字を刻んだ魔石が突き刺さる!

バシュウウッ!

「ぐあああっ、だ、誰だぁ?結界を破って来るとはただものじゃねぇな?姿を見せやがれ!」
「フッ、闇を照らすは白い月光。その輝きは鋭く闇を突き刺す剣!!行くぞ、風牙!!」
「誰なんだてめぇは!」
「貴様に名乗る名前は・・・無いっ!!」

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ほんの数分前である。
加山がこの場所付近へと到着する。

「ここか月影!東山が襲われたと言うのは!」
「ええ、そのようですね。妖力の残留反応が感じられます。」
「よぅし、月読、頼むぞ!入り口を見つけてくれ!!」
「うん!ちょっと待ってて。え〜っとね〜〜〜・・・・こっち!こっちで気流が変わってるよー。」
「よし、月影、結界を頼む!!」
「了解です!!」

盲目の少女、月読。
ご存知の方も少なくないと思うが、視力を補ってなお余るその聴力は空間の異相すら探り当てる。
そして黒装束の女性、月影。
彼女は全身の霊力を弓矢に集め、その霊弓・疾風丸で射る事によって異相に扉を作ろうとしていた。

「はぁぁぁぁぁっ!!秘弓・裂空破!!」
「そこか!・・・ありがとう、月影!月読!」
「いえ、それよりも早く彼を!!」
「かれを〜♪」
「よし、行って来るっ!!」
「そうだ隊長、名前は名乗っちゃダメですからね!ノリで名乗らないで下さいねっ!」
「くださ〜いねっ♪」
「んっ、気を付けてみるっ!!」

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ガキィィィン!!

「くっ、強えぇっ!まさかここで邪魔が入るとはな・・・」
「観念するんだな・・・・お前に勝ち目は無い!!」
「ちぃぃぃぃっ!!」

切り結んだ体制から渾身の力で風牙が剣をはじく。
負けじと加山が一撃を加えようとする瞬間、風牙は後ろにスッと引いた。

「しょうがねぇ・・そいつは返してやるよ。ここで命ぃ失っちゃ洒落にならねぇからな。
 仕方ねぇ、ここは退散させてもらうぜ。じゃあな!」
「逃がすかっ!!」

しかし、加山の白刃はスッと空を切る。
いつもは見せない苦々しい顔をして剣を収めると、葉次郎が気を取り戻した。

「た、田中さん・・ですか?」
「おおっ、無事だったかい?間に合ってオレは幸せだなぁ〜♪」

先程の顔とは対照的に、にこやかに答える加山。

「あの・・・助けていただいてありがとうございました。」
「水くさいぞ。オレとキミの仲じゃないかぁ♪」

そんな仲では決して無いのではあるが。
それを受けて、葉次郎が加山に詰問する。

「なら、一つ聞いても良いですか?」
「何だい?何なりと答えてあげよう!」
「田中さんって本当は一体何者なんです?あの人を退けるなんて絶対ただ者じゃ無いです!」
「う〜ん、良い質問だなぁ。実は俺の正体だが・・・・・」

シリアスな顔つきになる加山。つられて葉次郎もゴクッと息を飲む。
その外では月影が真っ青になっている。

「いかん!結界が収束して弾ける!葉次郎くん!飛べっ!!」
「はっ、はいっ!!って、・・・ええええええっ!?
「いや、羽ばたくんじゃなくってポンとジャンプで良いんだ・・・」
「・・・・・・あ。」

加山と葉次郎は軽く大地を蹴る。その瞬間、収束した結界が弾けた。
が、それほどの影響も無く怪我もなかった。加山のブラフだったのだから。
そして、再び立ちあがった二人の目の前の建物が崩れ落ちる。

・・・・・グワッシャァァァァン!!

金色の天雷の魔操機兵が弥介の機体の巴投げによって吹っ飛ばされた来たのである。
禍禍しい金色の魔操機兵に仰天したものの、更に葉次郎は仰天する事になる。
何故なら無塗装の光武から聞こえてきた声が弥介のものだったからだ。

「あれは・・・あの光武に乗ってるのは弥介くん!?」
「ああ、彼は花組の見習い隊員だからね。」
「なっ!それは本当なんですかっ!?でもなんでそんな事を教えてくれるんです?」
「急遽決まったのさ。キミも帝撃の見習い隊員として編入される事がね。」

葉次郎は自分の耳を疑った。
自分に華撃団入隊の知らせがあるなど夢にも思わなかったからだ。

「そして、結果次第ではオレの真実を知る日が来るかもな。それより・・・彼だ。」
「え?ああっ!!」

目の前では、まさに死力を振り絞って、天雷が動けなくなった弥介にとどめを刺さんとしていた。
その魔操機兵がいよいよ大刀を振り下ろそうとしていた。

「大変だ!たっ、助けないと!!」
「よせ!この間の脇侍とは訳が違う!あの敵には君など見えていない!!」
「でっ、でもっ!」
「大丈夫だ、奴が必ず来る!絶対にな。奴はそう言う男だ!」

かくて、その『奴』が絶体絶命のタイミングで駆け付けて来た。
その剣の前に天雷は敗れ去った。

「凄い・・・片腕だけの光武であそこまで戦えるなんて!」
「あれがキミの目指すべき花組隊長だよ。ま、月組隊長はあの10倍強くてかっこいいんだけどね。」
「あ、ひょっとして、田中さんって・・・・月組の隊員さんなんですね?」
「・・・ま、まあ、そんなところかな。そうだ、見習い入隊にあたって会わせたい人がいるんだ。
 弥介くんにも声を掛けたいところだろうけど、来てくれるかい?」

そういって、加山は葉次郎を連れ立って帝劇近くの喫茶店に向かった。
すでにその人は喫茶店の席に座って待っていた。
二人が店内に入った事を確認するや、立ちあがって迎える。

「ご苦労様、えっと・・・・田中くん。」
「いえいえ、任務を遂行しただけです。」
「そして初めまして、高原葉次郎くん。帝国華撃団副指令、藤枝あやめです。」
「こちらこそ初めまして。でもどこかでお会いしたような・・・」
「おおっ!?葉次郎くん、いきなりあやめさんを口説くのかぁっ?」
「ちっ、違いますよぉっ!」
「あら、残念ねぇ。」
「ふっ、藤枝さんまで一緒にからかわないで下さいよ〜。」

そして、心構えなど、必要最低限の説明と、明朝1000時大帝国劇場にて待ち合わせ、
その後、帝撃本部に向かう事を告げられた。

「さて・・・そろそろ機体の回収も終わる頃ね。じゃあ、万端の準備をして来てちょうだいね?」
「分かりました!精一杯がんばりますっ!」
「んふふっ♪元気があってよろしい!明日には待望の弥介くんとご対面だものね。
 じゃあ、私はこれで失礼するわね。また明朝に会いましょう。」
「よし、じゃあオレは葉次郎くんを家まで送るとしようか。」
「・・でももう大丈夫ですよ?」
「悲しいなぁ〜。明日からはしばしのお別れだって言うのに。」

そう、加山の任務は葉次郎のマネージャーではないのだ。
ひとまずの危機が去り、帝撃本部に住み込むとなれば、この任務は終了と言う事になる。

「まぁ、再開の刻もあるだろう。いいか、これだけは覚えておいてくれ。
 いつも心に勇気を忘れるな。そうすれば心は誇り高き魂となる!!」
「勇気・・・そして魂・・・・・」
「そうそう。それが何かは日々求めつづけることさ。アディオスアミーゴ〜♪」
「はいっ!」



そして、葉次郎は帰宅し、明日からの住み込み生活のための荷物をまとめた。
もっとも家人に説明がなされていて、荷物はあらかたまとまっていたのだったが。
説明、と言うのは無論ダミーの、である。
する事が早々にすんでしまうと余計に胸が高鳴って、夜は眠れなかった。
憧れの華撃団。そして共に戦う仲間に思いを馳せるといよいよ目が冴える。
そんな眠れぬ夜を過ごし、朝がやって来た。

昨夜の不眠も物ともせず、意気揚揚と大帝国劇場に向かい始める。
実のところ、気もそぞろに小1時間ばかり早い出発であった。
いくつか角を曲がり、帝劇の正面に続く道に出ると向こうから走ってくる人影が見える。
それは紛れも無い、東弥介その人だった。

「やっ、弥介くん!?」
「は?誰だ、お前?」
「ぼっ、ボク、高原葉次郎!キミと同じくこれから華撃団で・・・あっと・・同じ所で・・」
「あ、悪りぃ。実はオレ、旅に出る事にしたんだ。」
「ええええっ!?」

それから二人はあの日、9月1日からのお互いの話をした。
すれ違ったり、誤解があったり。昨日の戦闘、そして旅に出る理由。
弥介はともかく、葉次郎にとってはすべての疑問が氷解してゆく時であった。

「・・・そうか。止めても止め様も無いんだね。正直やっとこれから、って思ってて残念だけど。」
「折角の期待を無にしちまってごめんな。でも決めた事だからな。」
「いや、良いんだ。でも、でもこれだけは聞いてってくれないかい?」
「何を?」
「どこに居ても、ボク達は帝国華撃団の名の元に、ずっと仲間だって事。」
「バーカ、もっと素敵な仲間があそこにいるっての。」

と、弥介が走ってきた後ろを指す。そこには大帝国劇場がある。

「エヘへ、それもそうだね。」
「だけど、ありがとうよ。そう言ってくれるなんて、聖人君子か、よっぽどのバカだろうけどよ。」
「うんっ!バカだよ、きっと。だから、いつかきっとまたこの帝都で再会しよう。」

そう言って、弥介に手を差し出す。

「ヘッ、気が向いたらな。」

口ではそう言いながらも弥介もまた手を差し出し握手をがっちりと交わす。

「ただよ、大変だぜ葉次郎。帝撃の体験入隊は。なんて言うか・・・・ま、行けば分かるか。」
「うん。弥介くんに負けないようにがんばるよ!」
「さて・・・っと、じゃあそろそろ行くとするか。ま、がんばれよな後輩。」
「うん・・・・・・・じゃあ、また会う日まで。」



名残惜しそうにしながらも、少年達は互いに背を向けて歩き出す。

一人は帝都を離れ、広い日本のその懐に。
もう一人は帝都の護り、帝国華撃団の本部へと。
足の向く先は違えども、思いの行きつく先はそう離れてはいまい。
新しい未来へと、一歩一歩歩いてゆくだろう。


そして、もう一人の少年が、大帝国劇場の扉をくぐる。
今までとは違う想いを抱いて。


<<終劇>>


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