動き出した黒之巣会の残党たち。
帝都にまた、危険が迫ろうとしていた。

それを知る由も無く、東弥介は帝撃の見習いとして日々を過ごしていた。
個性豊かな隊員たちに囲まれ、雑務に追われ、徐々にその才能を開花させて行く。

一方の高原葉次郎。
同じ能力を持つ弥介の事を考えながらも、剣に打ち込む日々が続いた。
技は北辰一刀流。されどもまだ中伝の修練を始めたばかり。
真宮寺さくらのように免許皆伝を賜る事は、まだまだ先のようであった。

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!!体験入隊前夜
第3話「想い」



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桶町、千葉道場では、災害にもめげず、集まってきた門弟たちが汗を流していた。
葉次郎もその一人であった。師範代を相手に稽古をつけてもらっていた。
一段落して、面をはずした師範代が葉次郎に言った。

「葉次郎、お前さんの打ち込みは悪くないが、今一つ気迫ってモンに欠けるねぇ」
「気迫・・・ですか。足りませんか?」
「ああ、お前さんの剣には『勝つんだ!!』って意気込みが足りねぇよ。」


師範代の言うように、型通りの演武として見れば、それなりの力はあった。
しかし、上手くなりたいと言う気が有っても、強くなりたい、と言う気概が無い。
と言う事を続けて師範代に言われて、葉次郎は考え込んでしまった。

「強く、かぁ・・・近代戦において、剣法なんて意味があるのかなぁ・・・」

やや論点がずれている様な気もするが、単純に体を動かす事が好きなのだ。
難しい事は忘れて、剣を振るって汗を流す。
竹刀を交える前の緊張感。
息を弾ませての激しい打ち合い。
それが葉次郎にとっての喜びであり楽しみだった。




午後3時を回ったころだろうか、稽古も一通り終わり、この日は解散となった。
それぞれに帰って行く塾生たち。
葉次郎も目いっぱい流した汗を井戸水で流して、家路に付くのであった。
しかしまっすぐに帰宅とはならない。
葉次郎の足は大帝国劇場へと向いていた。


来月の花組公演の演目がこの日発表されるのだが、それは理由付けでしかなかった。
葉次郎のお目当ては他にあった。それは帝劇の売店。
そこには、元気に店内を切り盛りする高村椿とアイリスの姿があった。
どうやらアイリスの方はと言うと、ファンサービスの一環として店頭にいるらしかった。
遠くから見ていた葉次郎はひとつ深呼吸をすると売店の方に向かって行った。


「あ、いらっしゃいませぇ!え・・っと、高原さんでしたよね?」
「はいっ、名前覚えてもらえて嬉しいなぁ・・・」
「そうそう、今日は新しい絵柄のブロマイドが入荷してるんですよ。一ついかがですか?」

間髪も入れずに商談に入る辺りが、売店担当として並び立つもの無しと呼ばれる所以だろうか。
喜びにひたる間もなく、葉次郎は卓上のブロマイドとにらめっこする事になった。
相変わらず、花組の面々のステキな表情の瞬間が切り取られている。
そこで、ふと期待を込めて見上げる視線に気がついた。

「あ、せっかくだし、アイリスちゃんのブロマイドを下さい。」
「え?アイリスのブロマイド買ってくれるのぉ?きゃは、ありがと〜☆」
「うふふっ、嬉しそう・・。あ、毎度ありがとうございますっ!ブロマイドは50銭になります。」
「それじゃ、買ってくれた記念にアイリスと握手だよぉ☆」

花組のスタアが握手してくれる時がある、と言う話は以前聞いていたが、これが初めての体験だった。
見た目には背丈も小さく子供であるアイリスだが、やはり間近で見ると輝くような魅力を放っている。
感激しつつも、椿のブロマイドがあれば椿が握手してくれるのかと考えてしまう葉次郎だった。
その様を思い浮かる彼を、アイリスの言葉が現実に戻した。

「ねぇねぇ、お兄ちゃん、アイリスとどこかで会ったことある?」
「え?いや、そりゃ舞台でいつもアイリスを見てるけど・・・・劇場の外ではさすがに無いよ。」
「う〜ん・・・なんでかなぁ??初めて会ったんじゃないみたいだけどなぁ・・・」

考えこむアイリスであったが、答えは見つからないようである。
実際には会ったのではなく、アイリスがその霊力を感じていたのだが。
そうこうするうちに、アイリスは次回公演のリハーサルに引っ張られて行ってしまった。
何とも解決のつかない幕切れではある。


「アイリスちゃんに気に入られたみたいですね?」
「そうですか?悪くは無いですけど・・・」
「無いけど・・・なんですか?」
「そ、その・・・椿ちゃんにも気に入られたいな、なんて・・・・」
「あら、気に入ってますよ?」
「ええっ!?」
「だから、また沢山買い物に来てくださいネ♪」

そう答えた彼女は飛びっきりの笑顔でそう言った。
その笑顔にますます惹かれてしまう葉次郎なのだが、判断に困る答えだ。
しかし、それはお客としてと取るべきなんだろう。
これが恋人同志だったらもう少しムードのあるものになるはずだし。
何だかんだ言いながらも、また買い物に来る事を話して売店を後にしようとしたそのとき。
背後から聞き覚えのある声がした。

「あ、弥介さん! いらっしゃい!!」
「ん? いらっしゃい、って・・・・おおっ!?」
「いらっしゃい! 何をお求めですか?」

振り向くとそこにはあのときの少年が椿と会話している。
同じ力を持っていたあの少年である。
数日来、探す手がかりも、また時間も無くそのままであったが、まさか帝劇で会えるとは。
天の与える偶然に感謝しながら近づこうとする葉次郎に、またもや背後から声がした。

「いようっ!まさか帝劇で会えるとは、天の与える偶然に感謝だなぁ〜〜♪」
「たっ、田中さん!?」
「ん〜?なにか悩んでいる相が出ているな?よし、しがない占い師のオレが無料でみてあげよう♪」
「い、いえっ、ボク売店に用事が・・・・」
「照れるな照れるな、ともかく静かな喫茶店にでも行ってゆっくり話を聞くとしようか。」
「たっ、田中さぁ〜〜ん・・・」

葉次郎はせっかくのチャンスをみすみす逃してしまった。
まるで、計算したように加山が登場した事には気がついていない。
弥介が何故ここに居るかは、まだ明かせないのである。


程なく二人は近所にある喫茶店に入っていった。
余談だが、そこは帝劇に便乗したような店名だった。

「どうした?ふくれっつらだなぁ〜。男はさわやかな笑顔で居るもんだぞ?」
「・・・だからボク、売店に用事があったんです!」
「売店、と言う事は椿ちゃんの顔がそんなに見たかったのか、うんうん。」
「ちっ、ちっ、違いますよっ!!」

とは言うものの全然違わない事が顔に出てしまっている。
自分でも分かるほど真っ赤な顔をしながら無理に話を変えようとした。

「・・と、ところで田中さんの話って一体なんですか?」
「オレの話じゃない。キミの話だ。椿ちゃんのこと以外にも何か悩んでいるだろう?」
「だからぁっ!」
「分かってるって。椿ちゃんは関係無いっと♪で、進むべき道になにか悩みがある、と。」
「え、ええ・・・」

さっきまで弥介の事を話そうと、思っていたのは巧妙にはぐらかされてしまった。
そして、葉次郎は道場であった事を加山に話したのだった。
師範代の言葉に正直困惑していたこともあり、弥介の話はすっかり消えてしまった。
過信はやがて、野心を生むのではないか?そんな問いかけもしてみた。

「ふむ・・過ぎたる強さは危険だと言いたいわけか。確かに一理あるかも知れんが・・・」
「何です?」
「到らない強さ、と言うもの考え物だな。キミは少し謙虚過ぎるよ。」
「そうでしょうか?」
「誰もが世界を救えるような英雄じゃないが、大切な誰かを守り抜く力は持つべきだと思う。」
「・・・また茶化したいんですか?」

またからかわれるのかと思って葉次郎はジト目で加山を睨んだ。
しかし、加山は真剣な表情をして話を続けた。

「いや、本気さ。男ってのは大切な誰かのために必死で戦って、その誰かを守る盾にならなきゃな。」
「誰かを守る力・・・」
「ああ、剣豪を目指すだけじゃなく、強さにはそう言う考え方もあるって事さ。オレの個人的意見だがな。」
「なるほど・・・そうですね、そう言う考え方もありますよね!!」

純粋に葉次郎は感動した。
物事の真理は決して一つではない、と昔読んだ本の一節を実感したりもした。
それからしばらく、とりとめ無く話を続け、時間は過ぎ去って行った。

「おっと、随分時間が経ってしまったな。そろそろオレはおいとまするとしよう。」
「あ、今日は色々と参考になりました。本当にありがとうございました!!」
「そうかい?お役に立てて良かったよ。また何か有ったら、このしがない吟遊詩人のオレを呼んでくれ♪」
「そうしたいんですが・・・田中さんって、どこにお住まいなんですか?」
「オレの住処は・・・・この世界さ♪大丈夫、キミに何かあったらオレの方から参上するよ。」
「いや、それ答えになってないんじゃ・・・」
「はっはっは、アディオスアミーゴ!また会おう葉次郎くん!!」

そう言うと、まるで疾風のように加山は消え去ってしまった。
どっちへ向かったのかも推測がつかない。
葉次郎は後を追うのをあきらめて、帰途についた。
加山が頭上の窓の張りにぶら下がっているとも気がつかずに。


そして、偶然か必然か、銀座の大通りを歩いていた葉次郎はまたも弥介を見かける事となる。
しかも、椿とならんで歩いているところを、である。

「あ〜、食った食った!椿ちゃんのお勧めだけあって美味かったなぁ〜。」
「良かったです。気に入ってもらえて。」
「いつもこれだったら買い物も悪くないかもな。」
「うふふっ、弥介さんたら。」

早い夕食を済ませ、大きな荷物を分担して持って歩いてゆく二人。
この光景を端から見たら、まず仲睦まじい物に見えるはずである。
少なからず、葉次郎にはそう取れた。取ってしまった。

その心は揺れた。
その両手はわなわなと震えた。
唇をぎゅっとかみ締めてみた。

片や同じ能力を持つことで、友情にも似た親近感を感じていた弥介。
そして、ほのかに恋心を抱いていた椿。

「弥介くんと椿ちゃんって・・・・・」

それ以上、言葉が出てこなかった。
しばし、俯いたまま立ち尽くしていると、椿の叫ぶ声が聞こえた。
なにやら性質の悪そうなゴロツキが二人を取り巻いている。

「な、何ですか貴方たち!!」
「何ですかとはご挨拶だなぁ、随分幸せそうじゃねぇか?オレ達にも分けてくれねぇかぁ?」
「椿ちゃん、こんなのに構わず早いとこ帰ろうぜ。」
「なんだとぉ?ふざけんなこのガキィ!!」

その文句をつけ終わるが早いか、男は地面に叩き付けられた。
荷物を安全な場所に置いていた弥介は、そのまま男を殴りつけた。
残る数人もすばやい身のこなしで逃れて、隙を突いてすべて投げ飛ばされた。
有りがちな捨て台詞を吐いて、男たちは逃げて行ってしまった。

「やっ、弥介さん!!大丈夫ですかっ?怪我は無いですか?」
「へへへっ、生身の体でやってる分楽勝だぜ♪カンナさんにも鍛えられてるしな。」
「良かったぁ・・・・どうなる事かと思っちゃいましたよぉ。」
「あんな奴らには負けないさ!何てったってオレは帝げ・・・」
「駄目ですぅ!弥介さんっ!!」
「おっとっとっと、いけねぇいけねぇ。これは禁句だったっけ。」


そして、歩いて行く二人をただ見ているだけしか出来なかった葉次郎が立ち尽くす。
こぶしを強く握り締めてみる。今の自分ではあまりに非力なのではないか?
さっきの弥介の状況に自分が立ったとしたら、何が出来ただろう?

「・・・・強くなりたい・・・弥介くんにも負けないくらい!!」

しかし、その表情はいつもの彼と違い、どこか思いつめ切羽詰った険しいものだった。
そして、どこからか、そんな葉次郎を見つめる視線が有った。

「良い傾向だぜ・・・葉次郎君よぉ・・・」
「感情に溺れて自分の意思で妖に堕ちれば、使える奴になるからな、ククク・・・」

いつぞや天雷と袂を分けた男、風牙。
幾人かの少年たちを誘拐し、次のターゲットを絞りつつあった。
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□次回予告□
ちゃらーらーらーらーらーちゃっちゃーーーん♪(予告音楽だと思いねぇ)


以前とはうって変わって強さを求めはじめる葉次郎。
しかし、それは危険な罠への入り口だった。
潜在的な能力に目をつけ、風牙が葉次郎を妖力へと誘う。


次回「檄!体験入隊前夜」
 第四話「妖邪」

太正櫻に浪漫の嵐!!

ちゃらっちゃちゃ、ちゃちゃん♪
第四話「妖邪」へ
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