太正12年9月1日。 帝都は未曾有の大災害に見舞われた。 帝都崩壊をもくろむ黒之巣会の発動せし『六破星降魔陣』の衝撃によるものであった。 街はまさに大混乱の様相を呈していた。 その街中で偶然、二人の少年が出会う事になる。 いや、正確に言うと一人がもう一人を見つけた、と言うのが正解かもしれない。 「ボクと同じだ・・・あの子!」 その少年の視線の先には帝都を賑わす怪蒸気から逃れようとする一人の少年。 怪蒸気に向かって罵りながら逃げ惑っている。 普通ならその状況を見て助けるなり我先にと逃げ出しているところだ。 無論、大概は逃げ出すであろうが。 しかし、逃げ惑う少年は燐光とも言うべき光を放っていた。 見つめる少年はふと自分の手の平を広げる。 その掌には逃げ惑う少年と同じ燐光が輝いていた。 ====================================== 実際に彼らがすれ違うのはもう少しだけ先の事となる。 太正12年、秋。 多く語られなかった霊力を持った少年の物語がもう一つ、幕を開ける。 『檄!!体験入隊前夜』 第1話「邂逅」 ====================================== こちらからは逃げていた少年が建物の影にで見えなくなってしまった。 しかし、怪蒸気の動きからするにどうやら追い詰められたらしい。 怪蒸気の持つ刀がその頭上に掲げられた。 そこで初めて嬉しさよりも驚きの方がやっと上回った。 「いっ、いけない!あの子、殺されちゃうよ!」 とは言ったものの、彼はただの商家の次男坊であった。 剣の心得は多少有ったが、怪蒸気には通用するべくも無い。 加えて言えば、竹刀こそ持てど、実剣を持っていようはずもない。 しかし彼は無意識に駆け出していた。その身にさっきよりも強く燐光を輝かせて。 瞬間、怪蒸気の動きが一瞬止まった。 駆け出した彼の燐光を察知して戸惑ったのであるが、その場の誰もが理解していなかった。 その瞬間に逃げていた少年は怪蒸気の脇をすり抜けた。 少年の無事を確認した彼は安堵と共に燐光の輝きを自ら消した。 直後、何かが飛来する音が聞こえてきた。 シュルシュルシュル〜〜〜グワ−−−ン!! 爆煙と共に怪蒸気はただのスクラップに変貌していた。 逃げていた少年はと言えば、何体かの人型蒸気に囲まれている。 しかし、彼はそれを知っていた。彼の家の店先で、物の本で何度か見かけていた。 「あれは・・・間違い無い!!華撃団は本当にあったんだ!! じゃあ、怪蒸気を吹き飛ばしたのは緑の光武のミサイルだったんだ! すごい、すごいよ!!道場の皆にも自慢できる!」 少年と華撃団の問答がやや続き、その後足早に華撃団は去っていってしまった。 そして、彼は身震いすらしていた。何を話していたのかは知る術も無い。 「こんな日に不謹慎かもしれないけど、何か得しちゃった。」 同じ光を持った少年。そして華撃団の霊子甲冑。 まるで盆と正月が一緒に来たような騒ぎであった。 その嬉しさの余り、隠していた力を再び解放してしまった少年。 災いは彼にも降りかかってくる。 ガラガラガラ・・・・ ガゴン!! 突如、横の壁が崩れた。 そしてその中から先程は遠巻きに見ていた怪蒸気が姿を現したのだ!! 間違い無く、狙いは自分の様だ。が、それが何故なのかは分かり様が無かった。 普段やって見せるように燐光を封じればそれで良かったのだが。 三十六計逃げるにしかず。 彼は一目散に怪蒸気と反対向きに駆け出した。 「・・・華撃団、戻って来てくれないかなぁ・・・・」 心なしか、先程の少年より頼りない。 とは言え、無理も無いのだが。 当の華撃団。 日本橋でいよいよ本拠地突入のそのとき。 「あれぇ?さっきのお兄ちゃん、2つに分裂しちゃった!?」 「何を言ってるのアイリス!」 「だってぇ・・・れいりょくが2つになったんだもん!」 「アイリス、それはまた帰ってからにしましょ?今は天海との決着をつけないと!」 「うん、そうだねっ!」 「じゃあ行くぞ皆!!黒之巣会本拠地に突入だ!!」 「「「「「「了解!!」」」」」」 話を彼に戻そう。 見ていた側から逃げる側にとなってしまった彼である。 必死に逃げて走るも、相手は自動人形である。 こちらの息がだんだん上がってきた。とは言え話が通用しそうな相手では決して無い。 と、そんな時足を瓦礫に引っ掛けて倒れてしまった。 「くっ・・・・ど、どうしよう・・・・・このままじゃ、このままじゃ!!」 不意に転んだため、動揺していた彼は地面に座りこんだまま混乱していた。 すぐに起き上がって走り出せば何とかなったかもしれないが、それを考えられなかった。 「このまま死んじゃうのかな・・・免許皆伝、貰いたかったな・・・・」 眼前に怪蒸気が迫り、先程見たように刀を振りかぶり、それが今度は自分に向いていた。 華撃団のミサイルの音もするはずも無い。 いよいよ潔く諦めるしかない、と彼は悟り始めていた。 「父様、母様、先立つ不幸をお許し下さい・・・・・」 刀が振り下ろされる瞬間、同時に目を閉じた。 しかし、その時!! ガキィィィィィン!! 彼が閉じていた目を開くと、そこに白いスーツ姿の男が怪蒸気に対峙していた。 今の一撃は目の前のスーツの男が受け流したらしい。 「間一髪間に合ったか。オレはラッキーだなぁ〜♪」 そんな軽口を言いながら、怪蒸気に対峙して全く引く構えを見せない。 そして怪蒸気の攻撃を楽々と受け流す。 正眼からの打ち込みにはつむじ風のようにかわし、 振りかぶっての袈裟切りを逆らわず薙ぎ払う。 やがて大きく開いた胴に渾身の一撃が決まる。 怪蒸気は支えを失った櫓のごとく、崩れ落ちた。 そして彼はスーツ姿の男の剣先にも、やはりあの輝きを見たのだった。 「怪我は無かったかい?」 「ええ、危ないところを本当に助かりました。ボク、高原葉次郎と言います!」 「高原・・・葉次郎君か。」 スーツ姿の男とは、もちろんお察しの通り加山である。 加山は保護の命令のあった少年であった事を再確認し、うなずいて見た。 葉次郎は無論そんな事を知らずに加山に質問をしてみた。 「あの、貴方もボクと同じ光を持ってるんですね!嬉しいです、感激です! さっきの男の子と言い、ボクだけが異端じゃなかったんだ!」 「まぁ・・・誰もが持っている力ではないのは確かだな。人によっては邪な力にもなるしな。」 「邪な・・・力?」 「正しき心を持って使えばそれは『霊力』。悪しき心を持ちて使えば『妖力』になる。」 霊力。言葉の響きから修験者や陰陽師だのの類いが持っている能力だと葉次郎は得心した。 しかし、妖力と言うのは初耳だった。 やはりなにかこう、怨霊などが持っている念力のようなものかと考えてみた。 「君はその力が生まれ付き人より強い傾向にあるんだ。そしてそれを隠す事も知っている。」 「ええ、この光を出していると変な動物が見えるんです。で危険な目に会うし。」 「ほう・・・・そこまでとはね。やはり桶町での修練が影響しているのかな。」 「何で知っているんですか!?」 「え・・いやぁ、江戸末期より変わらず桶町千葉と言えば実力は折り紙付きだからね。」 背負っている防具からそう推測して見せた、と加山は続けて言った。 まさか、当方で何から何まで調べてあるとは言えない。 少なくとも今は。 「さて・・・日も暮れて随分経つ。ましてやこんな日だ。近くまで送ろうか。」 「いえ、もう近いから大丈夫です。そうだ、まだ名前をお聞きしてません。」 「・・・そう言えばそうだったね。俺の名は田中邦栄。しがない素浪人さ♪」 「すっ、素浪人って・・・」 「また会う事もあるだろう、それまで達者でなアディオスアミーゴ、また会おう!!」 「ああっ!・・・田中さんか・・・・よく分からない人だな・・・」 言うまでも無いが、加山は偽名を使っている。 現時点での一般人に、おいそれと名前を名乗れるものではないからだ。 そして、ここに運命の歯車が回り始めた。 <<続く>> □次回予告□ ちゃらーらーらーちゃっちゃーーー♪(予告音楽だと思いねぇ) 太正12年7月、帝都で行われていた少年健診。 それは更なる悲劇を止めるための隠された秘密があった・・・・。 それに伴って、月組の受けた密命は少年たちの保護。 そして、再び9月、天海の無念を晴らさんがため、 帝都の闇に潜む黒之巣会の残党たちが胎動を始める。 次回「檄!体験入隊前夜」 第二話「胎動」 太正櫻に浪漫の嵐!! 「頼むわね、加山君♪」 ちゃらっちゃちゃ、ちゃちゃん♪ |