三月初旬のことである。 かすみ、由里、椿の三人は帝劇の仕事が終わり帰途に就いていた、 空には真ん丸な満月が浮かんでおり三人を月光で包んでいた。 帰り道の途中のことである、 三人は河川敷を歩いていた、 するとそこには花はまだ七分咲きぐらいの立派な一本の梅の木が立っていた。 「うわあ〜、見て見てかすみさん、椿。梅の木よ!奇麗ね〜。」 「本当に・・・・、月の光で美しく照らされて・・・。まだ七分咲きくらいだけどいいわね。」 かすみも由里もその梅の木に見とれていた、 しかし椿だけは違うことを考えていたようだ。 「・・・・・おばあちゃん。」 「えっ、何か言った。椿?」 「い、いえ何でも・・・・。」 由里は椿に尋ねるがはぐらかす、 椿のその可愛らしい瞳にはうっすらと涙が浮かんでいた。 「本当にどうしたの、椿?」 かすみは心配そうに椿に聞く、 「ええかすみさん、本当に大丈夫ですから。」 「そ、そう・・・・・。」 心配しているかすみをよそに由里は梅で何かを思い出したらしく、 やぶから棒に、 「ねえ、椿。そういえば椿は梅干しが嫌いだって言ってたわね、なんでなの?」 椿は突然の質問に戸惑ってしまって、 「えっ、梅干しですか?」 「そう、ねえ椿、教えてよ〜!」 由里の熱心な押しについに椿は負け、 「・・・・・・そうですね。こんなに満月も梅も奇麗ですから話しちゃいましょうか。」 椿は梅の木に近づき幹をいとおしいように撫でながら、 「あたしっておばあちゃん子だったんです。いっつもあたしのことを守ってくれて、とっても元気なおばあちゃんだったんですよ。確かあの時もそうだったな・・・・・・。」 あの時あたしは近所の子供たちが小猫をいじめているのを見て助けにはいったんです、 「こら!弱いものいじめは止めなさいよ!」 『なんだよお前!この猫はお前のかよ、違うんだったら関係ないだろ。あっちに行けよ!』 「そんなこと関係ないでしょ!小猫を放しなさい!」 そういったあたしはその子達の中に割って入っていじめられている小猫を抱きかかえたんです。 「大丈夫だった?おまえ。」 小猫はふるえておびえていたんです、 だから小猫の頭を撫でながら言葉をかけたんです。 そしたら、 『お前生意気だぞ!みんな今度はこいつをいじめてやろうぜ!』 『『おう!』』 今度はあたしをいじめ始めたんです、 怖かった、 逃げたかった、 でも小猫を守らなくちゃという気持ちでいっぱいでした。 そしたらそこへ、 「こら!お前たち。うちの孫になにするんだい!」 「お、おばあちゃん!」 そこにおばあちゃんが竹ボウキを振り上げて助けに来てくれたんです。 『うわ!煎餅屋の鬼ばばあだ、逃げろ!』 するとその子たちはほうほうの体で逃げていったんです。 倒れているあたしを起こしてほこりを払ってくれた後、 おばあちゃんはあたしの撫でてくれて、 「えらかったね、椿。ほんとにお前はいい子だよ。」 おばあちゃんの言葉を聞いてあたしも緊張の糸が切れて、 おばあちゃんにすがり泣き始めちゃったんですよ。 「おばあちゃん・・・・、怖かったよ〜!」 「よしよし、ほんとにお前はいい子だ・・・・。」 そのときのおばあちゃんの胸の中は温かかった。 抱きかかえていた子猫もありがとうと言っているのかあたしを心配しているのか頬に伝わる涙を舐めてくれたんです。 「ウフ、こらくすぐったいよ〜!」 おばあちゃんはそれを見て微笑んでいました。 おばあちゃんはあたしにとって本当に大切な人だったんです。 「ちなみにその子猫は『ミケ』って名付けて今でも実家の方で飼っているんですけどね。」 「ふ〜ん、ずいぶん優しくて頼もしい人だったのね。椿のおばあちゃんって・・・・・。」 かすみはその話を聞いて暖かな気持ちになっていた。 それで由里はというと、 「で、なんで梅干し嫌いになったのかまだわからないわ。早く続きを話してよ!」 由里は由里なりにその話に暖かい気持ちにはなっているらしいのだが、 どうも好奇心の方が先に出ているらしい。 椿はそんな由里を見てくすっと笑い、 「そうですね、これはだいたい8年前、あたしが10歳の頃の話なんですけど・・・・・。」 うちの庭には大きな梅の木が生えているんです、 そのときあたしはその梅の木に上り遊んでいたんです。 その梅の木の一番上に昇るといつもは見えない遠くの風景まで見えるんでその場所が好きだったんですよ、 その日も強い風が吹いてるにもかかわらず梅の木の上に昇っていたんです。 「うわ〜、雷門があんなにちっちゃく見える〜。」 そしたらたまたま庭を掃除しに来たおばあちゃんがそれを見つけて、 「これ、椿。今日は危ないから降りてらっしゃい!」 「平気だよ!ほらこんな格好をしても大丈夫!」 そのときあたしはおばあちゃんにかっこいいところを見せようとして、 おどけて危ない体勢をとっていたんです。 「椿!本当に危ないから早く降りてきなさい!」 おばあちゃんが本当に心配な顔でいっているので、 あたしも悪いかなって思って梅の木から降りようとしたその時でした、 突然強い突風が吹いてバランスの悪い格好をしていたあたしを吹き飛ばしたんです! 「キャア!」 「つ、椿!」 なすすべもなく地面へと落下していくあたし、 おばあちゃんはあたしが落ちるはずの場所に走っていました。 そのとき、 バサバサァ! 大きく広がった梅の木の枝があたしの体をキャッチするかのように受け止めて落下する速度をやわらげてくれたんです、 木の枝が速度を弱めてくれたおかげでおばあちゃんはあたしをなんなく受け止めてくれました。 「ふう、大丈夫かい椿?」 「お、おばあちゃ〜ん!」 あたしはおばあちゃんに助けられ、 そして梅の木にも助けられたんです。 おばあちゃんは泣きやんで落ち着いたあたしにこの梅の木について話してくれたんです。 「この梅の木はね、あたしが生まれたときに父さんが・・・椿にとってはひいおじいちゃんだね。ひいおじいちゃんが記念にと植えてくれたものなんだよ。」 「おばあちゃんが生まれたときに?」 「ああ、そうだよ。あたしには姉妹がいなかったから寂しいだろうって、同じ時を刻むものがいたほうがいいだろうって植えてくれたんだよ。」 おばあちゃんは木の幹に触りながら話してくれました。 「この木はあたしにとって姉妹と同じ・・・・いや、あたし自身なんだろうね。」 「おばあちゃん・・・。」 「椿が木から落ちたときあたしは椿を助けたい!という一念だけだったから、それが木にも伝わったんだろうね・・・・。」 あたしはその日から梅の木をおばあちゃんと思えるようになったんです、 おばあちゃんといっしょの時を刻んだ木、 おばあちゃんといっしょにあたしを見守り続けてくれた木、 梅の木はあたしのもう一人のおばあちゃんなんです。 その日から一カ月後くらいかな、 おばあちゃんは急に倒れ、 この世からいなくなってしまったのは。 そのときあたしはとても悲しくてもう一人のおばあちゃんのところで泣いていたんです。 その日は今日と同じような満月の日で梅の香りに誘われるようにいつの間にかにここに来ていました。 あたしはおばあちゃんがあたしをおいて行ってしまったのがとても悲しくて月に、 「ねえ、なんでおばあちゃんはあたしをおいていなくなっちゃったの!」 と、月に聞いていたんです。 でも月は答えずにただ浮かんでいるだけ、 それでも、 「ねえ、答えてよ!」 それでも答えてくれない月はただあたしの流した涙にその月明かりを映すだけでした・・・・。 「それからなんですよ、梅の木を見るとおばあちゃんを思い出してしまうのは。梅干しもそんなに激しく嫌いって言うんじゃなくて、梅干しを食べるのはなんだかおばあちゃんを食べるみたいで・・・・。」 椿はそう話すとたまらずはにかんだ。 「そうだったの・・・。そういう理由があったんだ。ごめんね椿、そんな辛い事聞いちゃって。」 そう由里はすまなそうに椿に言った。 「いえ、いいんですよ。おばあちゃんの事も思い出すことができたんだし・・・・。」 ツゥー、 そう話している椿の瞳からひとすじの涙が、 「あれ、あたし何で泣いているんだろう?あれ、おかしいな〜。」 そういう椿にかすみは優しく椿を抱きしめて、 「いいのよ、少し泣いちゃいなさい。」 かすみのその一言で椿は、 「ウッ、グス・・・・、おばあちゃん・・・・・・。」 かすみの腕の中で泣く椿、 由里も少しもらい涙を流している。 満月は今も梅の木と三人を照らしている、 その七分咲きの梅の花の間から差し込む月明かりは三人を優しく包み込んでいるようだった・・・・・。 <<了>> |
あとがき(座談会partW) 三人「お読みくださった皆さん、ありがとうございました〜!」 おお、今回はシンプルな出だしだな! 由里「何か言いました?」 椿「それじゃいつもは異常な出だしみたいに聞こえるじゃないですか!」 (実際そうじゃないか・・・。) 二人「「なんですって!」」 ひいい、ごめんなさい! かすみ「まあまあ二人とも・・・。それで筆者さん、今回のお話について話ししてほしいんですけど?」 は、はい! (やっぱりかすみさんは優しいな〜、他の二人とはやっぱり違う!) 二人「「何か言った!」」 い、いえ何でも・・・・って何お前ら武器を持っている! い、いいのかまた俺を病院送りにでもしたら今回の話の説明ができなくなるぞ! 由里「まあ、そういうことだったら仕方ありませんね。」 椿「命拾いしましたね、筆者さん。」 (ふ〜う、この場はしのいだぞ。) さて今回の話ですがまず筆者が部屋をかたずけているときに、 発見した中学校時代の国語の教科書からアイデアを拝借しました。 かすみ「で、何を参考にしたの?」 藤原定家の短歌の『梅が香に 昔をとへば 春の月 こたえぬ影ぞ 袖に映れる』という句からです。 椿「へえ〜、たまには教科書もとっておくと役に立つんですね。」 由里「あたしなんかもう捨てちゃいましたよ。」 お前らいいか! それでこの句を読んでもともと椿ちゃんおばあちゃんの話を書きたかったんですよ、 それでこの句とくっつけてなおかつ椿ちゃんの梅干し嫌いと言う設定も合体させて書いたんです。 上の短歌は終わりの回想シーンの表現に使いました。 これでSSの話は終わり! 由里「これで終わったんですね・・・。」 ん、どうした? 椿「これで心置きなく・・・。」 お、お前ら、話が違う! 由里「だって話、終わったじゃないですか。」 椿「ですから・・・・・ねっ!」 ちょ、ちょっと待った! か、かすみさん!ヘルプミープリーズ! 二人「「せーの!」」 ドガ、バシ、ビシ! ・・・・・・・・・・・・・・、 かすみ「あらあら、元気がいいわね二人とも♪」 由里「これで邪魔者もいなくなったことだし。」 椿「これでお開きにしましょうか。」 かすみ「それでは皆さん・・・・。」 三人「また次回、お会いしましょう!」 黒子が拍子木をチョンと鳴らし幕が降りる、 じ、次回こそ見てろよ! 次回こそ筆者の逆襲が始まるのか? 次の座談会を刮目して待て!(爆) |