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太正十五年・五月二十日、由里の誕生日。
物語は由里の元にある贈り物が届けられたところから始まる……。



SS「らしく…



それはあたしが昼食をとって事務室に戻ってきたときのことでした。
事務室に入って、自分の机に目を向けると机の上に花束が置いてありました。
近寄って見てみるとそれは太陽の様に鮮やかな黄色いユリの花束でした。
黄色いユリの花束……。
あたしはその花を一目見て、誰から送られてきた物だかすぐに理解しました。

「由里、大神さんからあなた宛てに花束が届いているわよ。」

かすみさんはそう言って微笑んでいました。
そう、それはほんの数ヵ月前に巴里へ留学した大神さんから送られてきたものだったんです。

「……大神さん。」

花束には一枚のカードが添えられていました。
カードを開いてみるとそこに書いてあったのはたった一言。
『誕生日おめでとう』と……。
でもそれ以上に大神さんの想いをこの黄色いユリの花が物語ってくれていました。
大神さんに。
そしてこのユリの花に教えてもらった『らしく』という言葉。
大神さんに想いを伝える勇気をくれたこの言葉を……。





………………………………………………………………………………………………………………、





その日、由里と大神はいつも衣装製作を依頼している洋服屋へと来ていた。
今度の舞台衣装が出来上がったらしく、かえでに取りに行って欲しいと頼まれたのだ。
その洋服屋は最近新しいデザイナーが入ったらしく帝都では人気を博しているらしい。

「……大神さん。あれ、なんでしょうかね?」

その洋服屋の前に人だかりが出来ていた。
そこは好奇心が旺盛な由里。
人だかりが出来ていると行ってみたくなってしまう。

「ねえ、大神さん!ちょっと行ってみましょうよ!」
「ちょ、ちょっと由里くん!そんなに引っぱらないで!」

由里は大神を無理矢理引っぱって人だかりの方へ行くのであった。
そこでは海外からの輸入洋服の発表会、現代でいうファッションショウが行われていた。
当時はかなり海外の洋服も入ってきていたのではあるが、こういったショウが行われるのは珍しい。
舞台の上には色々と美しく着飾ったモデルの女性たちがいた。

「うわ〜!きれいですね〜、大神さん!」

由里は思わずそう呟いてしまう。
ちらっと隣を見てみると、モデルに見とれている大神の姿が……。

「お・お・が・み・さ・ん!」

ドス!
由里の肘が大神のわき腹に入る。

「グフッ!ゆ、由里くん、な、なんで?」
「知りません!」

(もう!大神さんったら!)

と由里は心の中でそう思ってしまうのであった。



二人は洋服屋のレジの奥の方で注文表を睨みながら、依頼した衣装がちゃんとあるか確かめるのであった。
「……これで全部ですね。はい、確かに受け取りました。」

どうやら舞台衣装はちゃんと揃っているようだ。
由里と大神は衣装を受け取り、両手を衣装の入った紙袋でいっぱいにして洋服屋を出た。

「さて、これで用は終わりだね由里くん。帝劇に戻ろうか。」
「ねえ、大神さん!せっかくだからどこかに寄っていきましょうよ!」

由里も大神と二人っきりになるチャンスはそうそうはない。
この二人の時間を少しでも長く味わいたいというわけだ。
大神はあごに手を当て少し考える素振りをしてから、

「……そうだね、そしたらどこかに寄っていこうか。」
「あはっ!そうだ!あたし、いい店を知っているんですよ!最近できたばかりの喫茶店なんですけども、早く行きましょうよ!」

そう言うとさっきと同じように大神の腕を引っぱっていくのであった。



カランコローン

『いらっしゃいませ!』

ドアを開けるとウエイトレスの元気の良いあいさつが店に響く。
店内に流れる耳をくすぐるクラシックの音色は品の良い雰囲気を醸し出していた。
由里と大神はウエイトレスに案内され、一番奥の窓際の席に座る。

『御注文は何にいたしましょうか?』
「それじゃあ……。」
「コーヒーセットを二つお願いします。」

大神がメニューを見る前に早々と由里が先に注文を済ましてしまうのであった。

「由里くん……。」
「大神さん、ここはあたしに任しておいてください。ここのコーヒーセットは最近帝都では有名なんですよ。」

由里のいつもの噂話が始まったという感じに大神は少し微笑む。

「ここの喫茶店はブラジルからコーヒー豆を直輸入していて………。」
「へえ〜そうなんだ………。」

そこで交わされる二人のたわいもない会話。
由里はそれだけで幸せを味わう事が出来る。

(この時間がいつまでも続けばいいのに……。)

と、由里はさらに噂話に熱を込めながら思うのであった。



話題は自然と先ほどのファッションショウの話に向かった。

「………そういえばさっきのファッションショウなんですけど。」
「うん、さっきのモデルの人たち、奇麗だったね。」

大神は無神経にもそんな事を言ってしまうのであった。
大神のそんな台詞に少なからず由里もムッとしてしまうのであった。

(もう、大神さんったら!………でも。)

そう思いながら由里はさっきの光景を思い出していた。
確かに女性の由里から見ても奇麗と思うモデルの人ばかりであった。
周りを見てもファッションショウを見ていた男の人たちはみんなモデルに見とれているようであった。

(やっぱり男の人はああいう風に奇麗に化粧をしてちゃんと着飾った女性の方が好きなのかな?)

由里はふと窓に映った自分の姿を見てみる。
服装はいつもと代わり映えのない服。
化粧も最低限なものだ。
よく同じ風組の女性隊員からも言われる。

『由里はあんなにミーハーで好奇心も強いのに、自分のことに対して無頓着すぎる』

と………。

(大神さんもああ言う女の人の方が……。)

由里はさりげなく、しかし傍目から見ればぎこちなく大神に尋ねてみる。

「お、大神さんもああいう女の人の方が好きなんですよね……?」

しかし語尾の方は殆ど聞こえないほど弱々しい。
大神は由里に急にそういう事をを聞かれ、戸惑ってしまう。

「……えっ、由里くん?」
「い、いえ!な、何でもないんです!」

由里は元気よく振る舞うがその笑顔はどことなくいつもの様な明るさが無い。

「何でもないんです……。」

そう言ったっきり由里は顔を伏せてしまうのであった。



帝劇へと向かう帰り道。
銀座の商店街を並んで歩く由里と大神。
だが由里の足取りは重く感じられ、元気さはない。

(何言ってるんだろう、あたしったら……。)

由里はあんなことを言ってしまった自分に後悔する。
だが由里にとって、この事はほんのきっかけにしか過ぎなかった。
ただ本当に自分は大神に相応しい人間なのだろうかと考えてしまう。
大神の周りにはさくらやすみれのように自分が足元にも及ばない(と思い込んでいる)様な女性がたくさん側にいる。
そんな自分が大神に想いを伝えてもいいのだろうか?
そういう思いが由里に影を落としていた。

(こんなあたしなんて大神さんは……。)

由里は大神に相応しい女性になりたいと努力してきた。
でもそんな努力も意味がないのではないかと思えてしまうのであった。



大神も由里の様子の異変に気づいていた。
恐らくその異変の理由となった台詞も。
大神はあの時の由里の『お、大神さんもああいう女の人の方が好きなんですよね……?』という問いかけに。
言葉に隠された意味に答えてあげる事が出来なかった。
それに答えてあげなくちゃいけない。
そのとき通りかかった花屋の色とりどりの花が大神の目に飛び込んできた。
その一本のある花が大神に答えるべき言葉を思いつかせてくれた。

「由里くん、ちょっと待ってて!」

大神は由里にそう言い残すと花屋に駆け込んだ。

「えっ、お、大神さん?!」
「すぐ戻ってくるから!」

一人ポツンと待たされる由里。
そして数分後。
花屋から出てきた大神は一本の花を持っていた。

「……大神さん、その花は?」
「これかい?これはユリの花だよ。」

そう、それは黄色いユリの花。
そして大神は由里の問いかけに対する自分の想いを話し始める。

「確かに自分を飾ることでの綺麗さというのもあると思う。でも由里くん、そのユリの花を見てごらん。」
「黄色い……ユリの花……。」

大神は由里にその黄色いユリの手渡す。

「ユリの花の綺麗さは決して自分を飾っているわけじゃない、自分自身の綺麗さだと思うんだ。自分のありのままの姿……飾らない綺麗さとでも言うのかな?うまく言えないけど由里くんは由里くんらしくいるのが一番素敵だと思うよ……。」

大神は由里の瞳をまっすぐに見つめ答える。
大神の真摯な目に由里は頬を紅潮させる。

「だから由里くん……、ねっ。」
「大神さん……。」





………………………………………………………………………………………………………………、





無理に自分を飾る必要はない。
あたしはあたしらしく……。
だって大神さんのためにとはいえ、いくら自分を飾ったってそれは本当のあたしじゃない。
大神さんにはありのままのあたしを見ていてほしい。
だからあたしはあたしのままでいようと思った。
そしてあたしは普段つけている薄紅色のルージュで。
大神さんへの想いを伝えるためのワンフレーズの勇気を唇にひいて。
あたしの精一杯の想いを伝えた………。



「…………由里?…………由里!」
「………えっ!あっ、はい!何ですか、かすみさん?」

するとかすみさんはクスリと笑って、

「花をジーッと見てるのもいいけど早く花瓶にいれてあげないと大神さんのお花が枯れちゃうわよ。」
「ああっ、いけない!かすみさん!花瓶ってどこにありましたっけ?!」

あたしってば大神さんの事を考えてて、お花を花瓶に入れるのを忘れてた!
あわててあたしはお花を花瓶に入れて、水をあげる。
そして自分の机の上の太陽の一番あたる場所へと置く。
眺めているとユリから馨しき香りと想いが薫ってくる。
黄色いユリの花……。
花言葉は『飾らない君が好き』。



そばにいなくても、



遠く離れていても、



伝わってくる、



大神さんの想いが……。



こんな暖かい気持ちになれる恋は初めて……。



だから神様、



この恋が永遠でありますように……。



<<了>>




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