君の笑顔(後編)


君の笑顔(後編)

「フォ、フォ、フォ、フォ、フォ、全ては計算通りじゃ・・・。」

真っ白な空に上がる五稜郭からの黒い爆煙、
それを上空から見下ろしながら蒸気浮遊ポットに乗った木喰はつぶやいた。

「わしの計算からいけばもう少しで全てを破壊できるじゃろう・・・、しかし、あのお方は恐れているのか・・・、どんな霊子甲冑が出てこようともわしの計算は完璧じゃ・・・。」

それだけ木喰は自分の作った魔操機兵に、
自分の計算に絶対の自信を持っていた。

「まあよい・・・、降魔兵器の実験台にしてやろう・・・、行け降魔どもわしの計算の正しさを証明してやれ・・・。」

木喰が手を振り指図すると降魔兵器たちは、
五稜郭へ、箱館の町へと散っていった。



「な、何が起こったの?」

五稜郭から立ち昇る爆煙を見て、

「い、急いでもどらなくっちゃ!」

椿は勢いよく走り出したのだったが今も降っている雪のせいで石畳が凍っていたのか、
ステーン!
足を滑らせ尻もちをついてしまった、

「いたたたた・・・・。」

お尻をさすりながら天を仰いでいると、
真っ白い空に黒い鳥のようなものが見える、
それはだんだんと大きくなり椿の方へ向かって来た。

「・・・・降魔だわ!」

椿がそれが何か認識できたと同時に降魔が降りてきたのだった、
ドスーーーン!
地の果てまで響くんじゃないかというような地響きをたて降魔は降り立った。

「ギシャー!!!」

この世のものとは思えぬ咆哮を上げ椿に近づいてくる、
(に、逃げなきゃ!)
降魔には生身の体では対抗できない、
椿が逃げようとした時には物凄いスピードで目の前まできていた、
降魔がその熊より数倍は太い腕を振り上げ、
鋭い爪を無情にも振り降ろした!
(・・・・大神さん!)
目をつぶってしまった椿は次の瞬間何者かに手を引っ張られ、
下に引きずり込まれてしまった。
何事かもわからずにポカンとしている椿の前にはなんと風組の戦闘服を着たトドさんがいたのだった、

「ふう・・・、もう少し遅れていれば危ないところじゃったわい。」

ほっとした表情でそう言った、

「ト、トドさん!なんでここに・・・・、ってここはどこですか?」

椿が周りを見渡すとそこは地下室のようだった、

「ああ、ここは北海道支部の格納庫じゃよ。」
「格納庫・・・、でもどうして・・・・。」
「モニタで地上にもう誰もいないか確認していたらなんと椿の姿を見つけてのう、あのすぐそばに非常の出入口があって良かったわい。」

ガッハッハと笑いながらそう言った。

「さあこっちについて来い、いいものを見せてやる。」

そういわれるまま二人はさらに深くまで続いている階段を降りはじめた。

「トドさん一体何がおこったんですか、突然大きな爆音とともに煙が・・・。」
「おそらく黒鬼会のやつらだ、天武のことを嗅ぎ付けて来やがったな。」

鬼気迫る顔で語るトドさん、

「やつらは天武を破壊するために箱館の町を攻撃してきやがった、くそっ!何の関係もない市民までに手をだしやがるとは!」
「だったら早くなんとかしないと!でも花組の皆さんは今帝都にいるし・・・。」
「ガッハッハッハッハ!でもやつらも俺たちを甘く見たもんだな。」

階段を降り分厚い扉を開けると、

「こ、これは!」

目の前には巨大なドックと翔鯨丸の4〜5倍はあろうかという戦艦が横たわっていた。

「これが北海道支部が誇る高速戦艦「瞬電」だ!」
「高速戦艦「瞬電」・・・・。」
「そうだ、これは星龍計画のときミカサの試作機として作られたものだ、小型だが蒸気併用霊子核機関を搭載している、スピードだけならミカサにも引けをとらんぞ。」
「これなら降魔たちを倒すことができますね!」
「よし!椿、早く準備をしろこの瞬電の火器管制担当はおまえにまかせる!」
「はい!了解です。」

椿は戦闘服に着替え瞬電に乗り込んだ、
各風組隊員が、

「琴風支部長、市民の避難完了です。」
「最終安全装置解除、発進準備完了しました。」

そして椿が、

「発進命令お願いいたします!」

いつもよりひときわ大きな声でトドさんは、

「高速戦艦・瞬電、発進だ!」

箱館山の山腹が大きく縦に割れてその中から瞬電が土煙を巻き上げ姿を現した。

「降魔たちを町から離しこちらへ引きつけるぞ、上昇だ!雲の上まで出るぞ。」

瞬電はどんどんとスピードを上げ雲めがけ上昇していった。



それを見ていた木喰は、

「ぬうう・・・、なんじゃあれはわしの計算には入っておらんぞ・・・?降魔ども、例の霊子甲冑を見つけ破壊するのはあとじゃ・・・、まずあの戦艦を破壊するのじゃ・・・。」

降魔たちは瞬電を追い雲の中へと突っ込んでいった。



「10体の降魔が瞬電に向け接近中、距離2000!」
「ようし、こっちについてきたな!椿、第一種戦闘配備は完了しているか?」
「はい、既に完了しています。」
「降魔を迎撃するぞ!高射砲用意!椿、すべてたたき落とせ!」

椿は標準を降魔にあわせ高射砲のレバーをひいた、

「高射砲発射!」

四方から接近する降魔に対し高射砲で迎撃する、
ドカーン!
あたった降魔は何回かの小爆発を繰り返し雲の下へと墜ちていった、
しかし数匹の降魔は残っており瞬電の装甲を破壊しはじめた、

「支部長、右舷装甲板攻撃を受けています!」
「後方尾翼も同様です!」
「急降下だ!降魔どもを引きはがし距離をとれ!」

急降下しはじめる瞬電、
その衝撃で降魔たちは吹き飛ばされる、

「二次攻撃だ!高射砲用意。」

椿が、

「了解です!高射砲発射!」

ズドドドド!
その攻撃により降魔は空中から跡形もなく飛び散った。

「降魔の反応、すべて消滅しました!」

椿がうれしそうな口調でそう言う、

「よし!被害状況を知らせろ。」
「瞬電の被害は軽微、航行に問題はありません。」
「そうか!ガッハッハッハッハ!ざまあみろ降魔、おとといきやがれってんだ!」

トドさんが軽口をたたく、
それにつられみんなに安堵感があふれた。



「くうう〜・・・・、おのれこのわしの計算をここまで狂わせるとは・・・。」

歯がみをしながら木喰はつぶやいた、

「こうなれば新たな降魔兵器を召喚してくれるわ・・・。」

木喰が奇妙な呪文を唱える、

「オンマイタラシティソワカ・・・、オンマイタラシティソワカ・・・、オンマイタラシティソワカ・・・。」

すると空中にポッカリと黒い穴が開きその中から先ほどの降魔の10倍はあろうかと思われる降魔が現れた。

「行け・・・、今度こそたたき落としてくれるわ・・・。」



「よし、引き上げるぞ。」

トドさんが引き上げを命令したそのとき、

「あ、ああ!まだレーダーに降魔の反応を一体確認しました!お、大きいです!」

椿がそう言った次の瞬間、
雲の中から巨大な降魔が現れた、

「なんてえ大きさだ!くそっ!主砲用意、迎撃だ!」
「はい!主砲、発射!」

ズドーン!
瞬電の先頭に付いている主砲の53サンチ砲が唸りを上げ、
降魔へ向かい砲弾が直撃する、
ドガーン!
降魔が爆煙に包まれ見えなくなる、

「やったか!」

トドさんが声を張り上げる、

「・・・ま、まだ降魔の反応があります!こちらに接近中です!」
「な、なにい!」

爆煙を突き抜け降魔がこちらへ向かい突進してくる、
瞬電の右舷を降魔の吐いた酸が捉える!
ドガーン!

「キャアアアアアアー!」

椿は思わず悲鳴を上げる、
瞬電はその衝撃で大きく揺れる、

「高射砲だ!撃って距離をとれ!」

降魔に高射砲を放つ、
びくともしないが時間を稼ぐことができた、
その間に降魔との距離をとる。

「被害状況は!」
「右舷装甲大破!このままでは航行に支障が!」
「ちぃ、主砲が効かねえとは・・・・、他に打つ手はねえのか・・・。」

少しの沈黙、
そしておもむろにトドさんは、

「そうだ・・・、いや、しかし危険過ぎる・・・。」
「何かいい方法があるんですか!」

椿が期待を込めた声でそうたずねると、

「ああ、だが危なすぎる、一歩間違えれば終わりだ・・・。」
「しかしこのままでは瞬電は、それに箱館の人々は!」
「・・・・賭けるか・・・・、よし!やるぞ椿!」
「は、はい!トドさん!」

トドさんは風組隊員に指令を出す、

「これより降魔に突撃!降魔に対しゼロ点射撃を行う、しかるのち瞬電は全力逆噴射を行い離脱する!この作戦はあぶねえ、みんなこの俺に命を預けてくれ!」

つまり降魔へギリギリまで接近し砲撃を行おうというのだ、

「「はい、了解です!」」

みんなが声を合わせそう答える、

「霊子核機関全開、ちょっとだけみんなに力を分けてもらえ!」
「霊子核機関全開!」
「エンジン最大出力、ぶち壊れるまで出力を上げろ!」
「エンジン最大出力!」
「椿!ギリギリまで接近したのち降魔のどてっ腹に砲弾をぶち込め!すべてをお前に託したぜ!」
「はい、了解です!目標指定をお願いします。」
「全速前進、目標は・・・巨大降魔だーーーーーーーーー!!!」

瞬電は唸りを上げ降魔に突撃する、
対する降魔も身構え待ち受ける、
降魔が巨大な手を振りかざしたその瞬間、
瞬電はふところに飛び込んだ!
(大神さん・・・、私に力を貸してください!)
椿はそう念じながら主砲の引き金を引いた、

「主砲、発射ーーーー!!!」

ズドーン!
発射された砲弾は巨大降魔の腹を突き破り大きな風穴を開けた、

「いまだ、全力逆噴射!」

瞬電は逆噴射をかけ爆発寸前の降魔から離れる、

「ギャーアオエウワーーーーーーー!」

ドゴーーーーーーーーーーーーーーン!!!!!
巨大降魔は奇怪な声を上げすさまじい爆発を残し消滅していった。



「け、計算外じゃ・・・、ぬうう〜・・・、まあよい・・・、そのような霊子甲冑しょせんは付け焼き刃じゃわしの敵ではない・・・、降魔兵器のデータも取れたしまずは良しとしようかの・・・。」
そう言い残すと木喰は消え去ったのだった。



「そうか、とうとうやつらも天武の存在を嗅ぎ付けやがったか・・・。」

ここは作戦司令室、
米田長官はキネマトロンでトドさんと向かい合っていた。

「はい、どうしましょうか米田長官。」
「・・・・悪いが琴風、天武の納入を早めてはくれねえか。」
「し、しかし長官!いくら何でもそれは無理があります、今でも全力でやっているのに・・・。」
「俺はよお、娘たちを戦に駆り出しているダメ軍人さ・・・、だからせめて最高の霊子甲冑を与えてやりこの戦いを早く終わらしてやりてえんだ・・・。」
「長官・・・。」
「頼む・・・。」
「・・・・・わかりました!この男、琴風平太、二言はございません一カ月以内に仕上げてみせましょう。」
「すまねえな・・・、琴風。」
「それでは早速作業に掛かりますんで、失礼します。」

米田がキネマトロンを切った直後、
そこへ大神が入ってきた、

「あれ?支配人こんなところで何をしているのですか。」
「ああ、ちょっとな・・・。」
「もしかして、例の秘密プロジェクトに関係が?」
「まあそんなようなものだ・・・。」
「・・・・・・・?」

そう言い残すと米田は司令室を去っていった。



椿はそれから異常に忙しくなった、
なにせ天武の納入が一カ月近く早まったのだからしょうがない、
結局あれ以降休みもなく大神のお土産も買えずじまいだったのだ。
そして天武の輸送の日がやってきたのだった、
箱館湾には輸送鑑とその護衛艦が既に着いており、
その搭乗口には椿とトドさん、風組のみんなが来ている、

「椿、短い間だったが楽しかったぜ、元気でな。」

トドさんは椿の頭を撫でながらそう言った、
少しくすぐったそうに椿は、

「はい、トドさんやみんなもお体に気をつけて。」
「ああそうそう、椿!大神ともよろしくやるんだぞ!」
「いやですよもう、トドさんったら。」

またからかうトドさん、
そして椿もまた顔を赤くするのであった。

「時間だぞ、ほら椿さっさと乗り込め。」
「はいわかりました、皆さん本当にお元気で!」

船が少しずつ岸から離れていく、

「よし、全員椿に向かって敬礼だ!」

全員が横一列に並び敬礼を行う、
それに対し椿もみんなに向け敬礼をするのであった。
それから3日後無事花やしき支部への輸送が完了する、
その翌日のことであった京極慶吾がクーデターを起こすのは・・・・・・。



「大神さん、お久しぶりです!」
「椿ちゃん、どうしてここに・・・?」
「ウフフ・・・、そ・れ・は・ですね。」

一呼吸おいてから椿は、

「帝国華撃団、風組、高村椿!北海道支部より新型霊子甲冑を輸送してまいりました!」

・・・・これからの帝国華撃団の活躍は皆さんが良くご存じだろう、
話は飛んで黒鬼会との戦いが終わったその夜、
みんなで大宴会をしている最中のことである、
大神は支配人にきれたお酒を買いにいかされていた、
外は昨日からの雪が降り続いている。

「うう寒い、ずいぶん降るな・・・。」

劇場に近づくと玄関には椿がいた、

「椿ちゃん・・・、どうしたんだいこんなところに立って。」
「大神さん・・・。」
「米田支配人から聞いたよ、あっちではいろいろ大変みたいだったようだね。」
「・・・大神さんのおかげです。」
「へっ?」
「私が頑張れたのは大神さんの”がんばれ”の一言が私の支えになってくれたおかげですから。」
「椿ちゃん・・・。」

少しの沈黙の後椿は、

「すいませんでした!大神さんのお土産買えなくて・・・。」
「そんなのいいんだよ、椿ちゃん。」
「でも・・・・。」
「俺はね椿ちゃん、君が元気で帰って来てくれたことが・・・、君が笑顔を見せてくれることが一番のお土産なんだよ。」
「大神さんっ・・・!」

椿の瞳から涙がこぼれる、
おもわず椿は大神に抱きついた、
大神はわけもわからずオロオロしている、
そんな二人のまわりをとても暖かい雪がつつんでいた。





<<了>>


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