各タイトル


1.

「ちっくしょおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!」

 木々の間に何度目かの蛮声が木霊する。
 ここは帝都某所の森の中。とは言っても『森』と言い切れる程深くなく、『林』と言う程開けている訳でもない。・・・まぁ、そんな所だ。
 すでに日も暮れ深さを増した闇の中、俺は黒鬼会五行衆の一人であり、その筆頭を名乗る金剛の乗機、大日剣を追跡していた。

ギッ・・・ギギギギギ・・・・・・

 先刻の戦いの影響か、時折機体から奇妙なきしみがあがる。
 それでも行動に支障がないのは、それを操る金剛を誉めるべきか、それとも機体の設計者を誉めるべきか。

「くそつ!くそっ!くっそおぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!」
 
 ・・・・・にしても、やかましい野郎だな。
 あれほど派手な負け戦の後だ、荒れるのも無理はないが・・・。
 こいつ帝都の平和を脅かす秘密組織の一員としての自覚無いのかね・・・。
 今回の俺の任務は、こいつの後を追けて黒鬼会のアジトを見つけることだ。今迄も何度か試みられたものの、他の五行衆にはその都度うまくまかれ、未だに拠点の一つも発見できずにいる。
 帝撃の耳目を司る月組としては、何時までもこのままにしていては存在意義を問われかねない。幸い今回はこいつの無神経さのお蔭で見失う心配はなさそうだが。

(もしかして・・・罠なんじゃないだろうな。)

 あまりの順調さに、ふと疑念が頭をよぎったその時、木立の向こうに一軒の建物が見えてきた。

 それは半ば朽ち果てた土蔵だった。
 明冶初期、もしかすれば江戸末期に建てられたと思しきそれは、潜り抜けた年月の重さを示すかのように、壁の一角が大きく崩れていた。

(魔操機兵の一台くらい楽に入れそうだな・・・。)

 その推論を裏付けるように、地面には人の物を遥かに越える大きさの足跡が、無数に刻み込まれている。
 間違い無い。ここがアジトの入り口だ!

ガシュン!!・・・ギギッ

 きしみをあげながら、大日剣の黄金色の巨体が入り口を潜ろうとしたその時。突然、内部の暗闇からその男は現れた。

「うわっ!?・・・なんでぇ鬼王か。驚かすんじゃねぇよ。」

(鬼・・・王・・だと!?)

 その男、鬼王は未だ謎の多い男だ。
 姿を見せたのは開戦直前の一度きり。その為、帝撃にあるのは話にもならないくらい乏しい情報のみ。黒鬼会の内部で一体どういう地位にあり、どういう能力を持っているのかも判らない。だがそれでもその男を見間違うことはないだろう。
 資料に記され、今も身に付けた『鬼の面』以上に雄弁に、その男の特異性を物語るもの。それは・・・・・。

(な、なんてぇ妖気だ!?)

 数メートル離れた木立の陰に潜んでいてさえ、発散される妖気が尋常ではないことが判る。下手に近づくのは危険すぎる相手だった。

(ここは一旦退くか・・・。)

 当初の目的を果たした以上、余計な深入りは禁物だ。
 俺がその場を離れようと決断した時、意外な会話が飛び出した。

「また・・・敗北したようだな・・・金剛。」
「うっ・・・うるせぇっ!!ちょっと油断しただけだっ!!
 今度こそ・・・・・。」
「ちょっと油断?・・・あのお方が聞いたならば何と仰られようか。」
「ぐっ・・・!?」

(『あのお方』・・・?黒鬼会の頭目のことかっ!!)

 予想外の言葉に心を乱したその一瞬が、思わぬ不覚を招いた。

パキッ・・・・・・

(しまった!!)

 俺の足の下で小枝の折れるその音は、大日剣の中の金剛に届くほどは大きくない。しかし、鬼王が無視出来るほどに小さくはなかった。

「・・・金剛。鼠を連れて来たようだな・・・。」
「ンだとぉ!?」

 その台詞を合図に、俺は全力で走り始めた。
 さらに深くなった闇の中、気の遠くなるほど彼方に輝く街の明かりを目指して・・・。

2.
 
 夜の闇の中、生い茂った木々の間を駆け抜ける俺の全身を、奇妙な違和感が包んでいた。
 
(なんだ・・・これはっ!?)
 
 明かりとなるのは、木の葉を透かして届く星明かりと、遠く輝く街の灯のみ。それでも鍛え抜かれた俺の目には、昼間同然の明るさだ。
 周囲に追っ手の姿はない。・・・だが、確かに何かがいる。
 
(これは一体・・・!?)
 
 その瞬間、全身にまとわりつく気配が一気に強くなった!!
 
斬ッ!!
 
 その一撃は俺の足元から放たれた!!
 
「・・・よくぞ・・・かわした。」
 
 謡うような・・・囁くような・・・
 その身に宿した深い闇を感じさせる声音と共に、数メートル先の木陰から濃密な妖気を纏って鬼王が姿を現す。
 ・・・だが、今の斬撃は間違い無く俺の足元からだった、一体どうやってあんなところまで・・・?
 その疑問は、奴の持つ一振りの刀を見た瞬間氷解した。
 
「・・・『影』・・・か。」
「ほう・・・。我が秘術、よくぞ見破った・・・。」
 
 『光刀無形』
 その本来の主であった山崎真之介の最期を記した資料、その知識が俺の頭を駆け巡る。
 鬼王・・・奴は影を渡るッ!!
 
「汚れし帝都の番犬め・・・光刀無形の錆となること誇りに思うがいい・・・。」
「残念ながら明日は舞台鑑賞の予定があってね、今日はあんまり夜遊びは出来ないんだ。
 それに・・・。」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・。」
「『あのお方』ってのが誰かも知らなきゃな・・・。」
 
 しまった!?
 
 喋るつもりはなかった、だが月組隊員としてそれなりの修羅場を潜った俺の口を、思わず滑らせるほどの妖気を奴は放っていた。
 そしてその一言が、奴の纏った妖気をさらに強く、濃くする。
 
「・・・どうやら、余計な事まで知ってしまったようだな。」
 
 それまでと変わらず静かな・・・しかし桁違いに強烈な威圧の篭った声に、全身の震えが止まらなくなる。生身で降魔と渡り合った時にも感じたことのない恐怖に、俺は死を覚悟した。
 
「観念するがいい・・・。」
(・・・すみれさんっ!!)
 
 光輝く舞台に立つ、あの人の姿を思い浮かべたその時、下生えに埋もれるように咲く一輪の花が目に入った。
 夏も盛りを過ぎたこの時期に咲く筈もないその花は、華麗な紫色をしていた・・。
 
「・・・まだだッ!!」
「なに?」
「帝国華撃団隊員は!!どんなに困難な状況にあろうとも、決して諦めたりはしないっ!!」
 
 そうだ!!どんな時も彼女は・・・彼女達は諦めはしなかった!!
 仮にも帝撃に属するこの俺が、早々と諦める訳にはいかない!!
 
「・・・面白い。
 では、見事私を退けて見せるが良い・・・!!」
「おおっ!!」
 
 そして戦いは始まった。

後編へつづく>

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