『死闘の涯て・・・』


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「ふうぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅっ・・・。」

 金剛の呼気には微かに血の味が混ざっていた。
 大日剣の計器に照らされたその顔は、いつもと異なり青白い。
 が、その口元にはいつもと変わらぬ、いや、それ以上に深い笑みが刻まれていた。

「なかなかやりやがるな・・・。
 面白れぇぜぇ! なぁっ!!」

ギシュンッ!!

 金剛の呼びかけに答えるかのように、一体の鋼の人型が姿を現す。
 血の気の引いた顔も、深く刻まれた笑みも、全ては目の前のそれが浮かべさせたものだ。
 人とは似て異なるプロポーションを持った、四本腕の異形の魔操機兵。
 黒鬼会五行衆が一人、土蜘蛛の駆る八葉が!!

『ふふっ。どうしたんだい金剛?息が荒くなってるじゃないか。
 いけないねぇ五行衆の一人ともあろう者が、これから忙しくなるってのにそんなんじゃ。
 京極様に笑われるよ。』

 八葉の外部スピーカーから、笑いを含んだ土蜘蛛の声が響いてくる。

「うるせぇっ!!」

 機体の中で吠えながら、金剛は大日剣を八葉に突撃させると同時に、右手に装備した剛刀の一撃を加える。
 だが、手加減抜きのその一撃を、八葉は軽やかに回避する。

『ヒャハハハハハッ!! 微温いんだよッ!!』

 嘲笑と共に大日剣の左へ回り込んだ八葉から、同じく手加減抜きの連打が襲いかかる。

ガガガガガガガガガガガガガガガガガッ!!

「ぬぅおぉっ!!」

 とっさに気合いを高めて防御したものの、決して少なくない衝撃が大日剣の装甲越しに金剛の身体に突き刺さる。
 機体に異常はないが、さすがに大きくバランスを崩してしまう。

(やべぇっ!? 堪えろ大日剣ッ!!)

 金剛の願いに答えるかのように、大日剣はその場に踏み留まる。

「へっ! 見たか土蜘蛛ォッ!!
 テメェの攻撃なんざ利きゃぁしねぇんだよッ!!」

 相手に聞かせるためと言うよりも、自分自身を奮い立たせるために放った言葉。
 だが、再び八葉を視界に納めた途端、金剛の全身から音を立てて血の気が引いた。

『臨・兵・闘・者・皆・陣・列・在・・・・。』

 土蜘蛛の声と共に、八葉の四本の腕が目まぐるしく印を組み替える。

『前ッ!!』

 常人に数倍する速さで高められた妖気が、次の瞬間一気に解き放たれる。
 これこそが土蜘蛛の最大の秘術。
 その名も・・・

『九印ッ!蔓茶羅ァッ!!』
「うおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!」

ドゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴッ!!

 八葉を中心として大地を走った妖気が、まるで蜘蛛の糸が獲物に絡み付くように、大日剣に襲いかかる。

「ぬっ! がぁっ!!」

 再び気合いを高め、妖気の奔流に耐えようとする金剛。
 だがその時、突如足元の大地が無数の土の槍と化して襲いかかった。
 それは激しい衝撃と共に、大日剣の手を、足を、全身を絡めとり、まるで張り付けになったかのような形で動きを封じ込める。

「なっ!? なんだこりゃぁっ!!」
『クククククッ。あんたの機体の頑丈さはよく分かったからね。動けなくさせてもらうよ。
 安心おし。あたしゃ仮にも仲間なんだ、一気に頭を潰して楽にしてあげるからねぇ。』

 そう言うや土蜘蛛は八葉を大きくジャンプさせ、全体重を乗せた蹴りを放つ。
 その手加減の欠片もない動きと、言葉に含まれた強い嘲りが金剛の怒りに火を着けた。

「な・・・嘗めやがってぇぇぇぇぇぇっ!!
 動けぇっ!! 大日剣っ!!」

オオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!

 それまでの数倍に膨れあがった金剛の妖気が、限界以上の出力を引き出し、全身を捕らえた戒めを砕き散らす。

『なっ!? そんな馬鹿なっ!!』
「うぅぅぅおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉッ!!」

 燃え立つ怒りを込めた両拳が、大日剣の胸の前で火花を上げて打ち合わされる。
 拳と拳の間に凝縮された妖気が、数万ボルトの雷の塊を産み出す。
 これが金剛最大の奥義。
 人呼んで。

「鬼神ッ! 轟天殺ゥッ!!」

ドンッ!!






 数十本の落雷を一纏めにしたかのような大音響が響き、辺りが土煙に覆われる。
 それが晴れた時そこには、とっさに防御した為か四本の腕と頭部を潰され横たわる八葉と、右の拳を掲げて仁王立する大日剣の姿があった。

『そこまで。勝者金剛。』

 その声によって二人の闘いは終わりを迎えた。

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パチ・パチパチパチ・・・パチパ・・・

 闘いを終え大日剣から降りた金剛を、まばらな拍手が出迎える。
 見ると水狐、火車、鬼王の三人がゆっくりと近づいて来る。

「よくやった金剛。見事な勝利であったぞ。」
「ククク、優雅さからは程遠い闘い方ですがね。」
「あら、どんな勝ち方でも勝ちは勝ちヨ。ウフフ・・・」

 他の二人はもとより、一見祝福の言葉を掛けているかのような鬼王からも、なんの感情も伝わってこない。

「ちっ・・・。テメェらもっと素直に喜べねぇのかぁ、あぁん?」
「喜べるわけないじゃろうが。」

 後ろから木喰の声がする。
 どうやら八葉の様子を見に行っていたらしく、土蜘蛛も一緒だ。

「二人とも初陣もまだの機体をいいように壊しおって。
 修復にどれ位かかるか見当もつかんわ。」
「全くだよ。あんたアタシを殺す気かい?」
「な・・・。テメェが先に仕掛たんだろうがっ!!」
「なんだってぇ!? やろうって・・・」
「よさぬか・・・。」

 静かな・・・、しかし抗い難い威圧の篭った鬼王の声に、その場の全員の動きが止まる。

「先程の水狐の言葉の通り、たとえ相手の息の根を止めようが勝ちは勝ち。
 よってこれ以後、金剛を五行衆筆頭とする。
 この決定法は京極様も同意なされておられる。一同異議はあるまいな・・・。」

 京極の名を出されては異議のあろうはずもない。
 沈黙を同意の証と解釈して、鬼王は話を先に進めた。

「では金剛。お前に筆頭の認定証と優勝賞金100円を授ける。受け取るがよい。」
「・・・・・・・・・応っ!!」

 表には現さなかったが、内心小踊りしたい気持ちを抑えて鬼王の前に進み出ると、緊張の面持ちで京極の署名の記された証書とノシ袋を受け取る。
 その途端、他の四人から歓声があがった。

「きゃーーーーーっ!! 金剛素敵よーーーっ!!」
「ふぉふぉふぉ。これで黒鬼会も安泰じゃて。」
「ククク。よろしく頼みますよ、筆頭。」
「あんたにならこの命、預けてもいいかもねぇ。」
「お・・・お前ぇら・・・。」

 予想外の展開に一瞬呆気にとられた金剛であったが、何が起こっているのか理解した途端、胸の奥から熱いものが込み上げてくるのを抑えられなかった。

「し、仕様がねぇなぁ。
 別に筆頭なんざやりたかねぇが、テメェらにそこまで言われて引き受けねぇのも、男が廃るってもんよ。
 ここはこの俺様に、一発どーんと任せやがれっ!!」
「「「「おおおーーーーっ!?」」」」

 堂々とした宣言に一同から驚きの声があがる。

「「「「・・・そういうことなら。」」」」
「・・・・・・・・・・・・ん?」

ドサドサドサドサドサドサドサ・・・・・・

「なっ、なんじゃこりゃぁっ!?」

 一体どこから取り出したのか、金剛の目の前に山のように品物が積み上げられる。
 書類、伝票、正体不明の機械の部品、降魔、生ゴミ、粗大ゴミ。
 黒鬼会で扱う全ての業務の縮図がそこに出現した。

「じゃ筆頭。報告書の作成お願いネ。」
「燃えないゴミの処分、よろしくお願いしますよ。筆頭。」
「今月の家計簿、やってくれるんだろう? 筆頭さん。」
「この機械は秋葉原の業者が、高く買い取ってくれるはずじゃ。
 交渉は任せたぞ。筆頭。」
「昨日生まれた降魔の子供だ。うちでは養いきれんので、どこか貰い手を見つけてくるように。筆頭よ。」
「テ・・・テメェら・・・。」

 ここぞとばかりに雑用を押し付ける五行衆(+鬼王)。
 あまりと言えばあんまりなその扱いに、金剛の中にさっきとは別の熱いものが込み上げてくる。

「俺を何だと・・・・・」
「筆頭筆頭筆頭筆頭筆頭筆頭筆頭筆頭筆頭筆頭筆頭筆頭筆頭筆頭筆頭筆頭・・・・・・・・・・。」

 みなぎった熱いものをほとばしらせようとしたその時、全員参加の『筆頭コール』が巻き起こった。

「お・・・おい・・・。」
「筆頭筆頭筆頭筆頭筆頭筆頭筆頭筆頭筆頭筆頭筆頭筆頭筆頭筆頭筆頭筆頭・・・・・・・・・。」
「ま・・・・待て・・・・。」
「筆頭筆頭筆頭筆頭筆頭筆頭筆頭筆頭筆頭・・・・・・・。」
「あ〜〜〜〜〜〜っ!! わかったよっ! やりゃぁいいんだろっ!! やりゃぁよぉっ!!」
「うおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!」

パチパチパチパチパチパチパチパチパチ!!

 こうして黒鬼会五行衆・筆頭となった金剛。
 だがその行く手に立ちふさがるものは余りに強大だッ!!

 戦え、金剛ッ!!

 負けるな、金剛ッ!!

 京極慶吾の悲願達成のその日までッ!!

 ゆけゆけ我らが五行衆筆頭ッ!!

「金剛よ・・・、大日剣と八葉の修理代。
 さっきの賞金から引いておくぞ・・・。」
「鬼王〜〜〜っ!! ちょっと待て〜〜〜っ!!」

〜おしまい〜

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