誓い

<本SSをお読みになる前に>

このSSは「サクラ大戦 2」〜君、死にたもうことなかれ〜
第13話のネタばれ的要素を含んでおります。
なので、まだ「サクラ大戦 2」をプレイされていない方、もしくはクリアしたけれど
第13話を見ておられない方。
そんな方はぜひ第13話まで御覧になった後でお読み下さると、よりお楽しみ頂けると
思います。
よろしくお願いいたします。

それでは皆様を大神一郎君の実家、栃木県の山里へとご案内いたします。

美咲 緑

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これは僕が幼い頃
栃木の実家にいた時のお話。

近所に知恵ちゃんっていう女の子が住んでたんだ。
よく二人で遊んだ。
飼っていた犬を連れて田畑を散歩したり
近くの川で魚を釣ったり
帰るのはいつも日が暮れる頃
知恵ちゃんを送って家に帰ると
「こんなに遅くまで何をしていたんだ」って
いつも怒鳴られていたっけ。

ある日
近くの山へ山菜取りに行った帰り
そろそろ帰ろうと思っていた僕達の前に
一匹の野犬が現れた。
僕は近くにあった木の枝を掴んだ。
「知恵ちゃん、逃げて!」
僕の叫び声を聞くや否や知恵ちゃんは走り出した。
僕は知恵ちゃんを逃がす為に野犬の前に立ちはだかった。
野犬は大きくてとても恐かった。
でも
知恵ちゃんを逃がさなきゃ。
僕は無我夢中で棒を振りまわした。

やがて
野犬が逃げて行った後、僕は知恵ちゃんの後を追った。
が、そこで僕が見たのは
知恵ちゃんが倒れている姿だった。
「知恵ちゃ……ん?」
呼びかけてみたけど、気付かない。
僕は知恵ちゃんをおぶって急いで家にかけ戻った。

その後のことはあまりよく覚えていない。
ただ、両親にひどく叱られた。
そのことだけが記憶に残っている。

〜知恵ちゃん、体が弱いから無理をさせちゃいけなかった〜

いつもはちゃんと覚えていたし、気をつけていた。
あの時、急に走らせちゃいけなかった。
どうして忘れてしまっていたんだろう。
どうして思い出せなかったんだろう。

それからの知恵ちゃんはずっと寝たきりだった。
だから今までのように一緒に遊べなくなった。
もちろん、お見舞いに行こうと思えば行くことはできた。
でも、行かなかった。
誰かから行くことが許されなかった訳じゃない。
僕のせいでこんなことになってしまったから
もし、会ってくれなかったらどうしよう。
そう思うと…
行けなかったんだ、恐くて。

会えないまま時は過ぎ
ある暖かな春の日
僕は知恵ちゃんが遠い場所へ逝ってしまったことを聞かされた。

お葬式の間は一粒の涙も流さず
僕は知恵ちゃんの写真を見つめていた。
本当は泣きたい気持ちで一杯だった。
でも泣けなかった。
「男の子は何があっても人前で泣いちゃいけないよ。」
そう教えられていたから。

だけど…

お葬式が終わって家へ帰る途中
道の両側に山桜が咲いていた。
木の枝が頭の上を覆い、桜の花のトンネルを作っていた。
ふと、風がふいた。
花びらがふわっと空を舞う。
その中
知恵ちゃんが駆けてくる。
!?
「知恵…ちゃ…ん」
呼びかけた時にはもうその姿は消えていた。
「もう会えないんだ…」
………………………………
涙。
泣いちゃいけない…、けど泣いてもいいよね。
本当に悲しい時には。
そして
僕は初めて泣いた。
泣きながら僕は心にこう誓った。

〜もう二度とこんな思いをしないように
大切な人を失わないように
もっともっと強くなる。
大切な人を守れるように〜

さらに時は流れ
僕は軍人になり
今はここ帝劇にいる。

※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※

トントン
「米田支配人、いらっしゃいますか?」
「おぅ、大神かぁ。まぁ入れやぁ。」
「はい、失礼します。」

「どうだぁ、大神ぃ。フランスへ行く準備は進んでいるか。」
「はい。で、支配人。少しお願いがあるのですが。」
「なんだ?言ってみろや。」
「実は留学の前に一度父や母に会っておきたいのですが。」
「…………。」
「いつ帰ってこられるか分からないのでしょう。支配人。」
「…まあ、いいか。2日くらいならいいだろう。帰ってこいや。」
「ありがとうございます。支配人。」

※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※

あの時見た山桜。
まだあのままの姿で残っているのだろうか。
知恵ちゃん。
俺は軍人になって戦った。
大切な人達を守る為に。
守りぬいた帝都の街。
帝劇の仲間達。
そして、花組の………。
もちろん俺一人だけじゃない。
みんなで力を合わせたからだけど。
でも
あの日の誓いがなければ
きっと俺はここまでになれなかったかもしれない。
ありがとう、知恵ちゃん。

ああ!あの日の風景
まだ変わらずに残っていたんだ。
俺、帰ってきたんだ、ここに。
ただいま!
〜終わり〜

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<あとがき>
主人公とはいえ、たった一人『かばう』が使える大神さん。
その理由とは?
「信頼度をあげる為のゲームシステムのひとつ」
なんて考えるのは味気ない。
ゲーム内ではきっと表現されないと思う彼の過去からこの疑問を考えてみよう。
そう思って書いてみたのが今回のお話です。
内容的には「サクラ 2」第13話に付随したものになっています。
(というか、話の影に隠れた部分なんですけれどね。)

この夏、大神さんの出身地である栃木を旅してきました。
観光地・日光、温泉地・鬼怒川。
そこへ行く列車の中から見た青々と茂る杉の森。
ふと、その木の影から走り出てくる幼い子供の姿を見たような気がしました。
TVもラジオもCDもなかったころの時代。
自然が最高の遊び場だった。
そんな時代の情景と、今年4月に高知で見てきた桜の風景(詳しくは旅行記
『ある春の日の一日』をお読み下さい)が合わさって出来たのが今回の物語です。

大神像は、プレイヤー自身ということもあり謎の面ばかりです。
きっと皆様一人ひとり持つイメージが一番違うキャラクターだと思います。
だから、これはある一人の大神一郎君の物語。
そう思って読んで頂ければ幸いです。

時期はずれな内容となってしまいましたが、快く掲載許可を頂きました管理人:フェル様。
そしてお読み頂きました皆様。
ありがとうございました。

それでは、この辺で。

1999年9月 美咲 緑
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