帝国華撃団隠密行動部隊月組。 帝撃の影としての彼らの任務は、情報の収拾・分析、防諜、敵撹乱、そして、帝撃要人の護衛と多岐にわたる。 これは、ある月組隊員の、愛と闘いの記録である。 「あっ!こらっ大神っ!!すみれさんに近づくんじゃねえっ!!」 浜辺に面した岬の上。生い茂った薮の中にひそみ、打ち寄せる波と戯れる一群の男女を見下ろしながら、俺は思わず叫んでいた。 ごん! 鈍い音とともに、後ろ頭に何かが当たる。 「こらこら十六夜ぃ。仕事を忘れちゃ駄目だろう。」 ふりかえるとそこには、俺の上司、月組加山雄一隊長が立っていた。 海辺にふさわしく、縞のシャツと麻のズボンという格好だが、なぜか白いギターを抱えている。・・・どうやらさっきのはこれらしい。 「たいちょう〜、ギターでツッこむのやめてくださいよ〜。」 「はっはっは。男が細かいことを気にするな。」 思わず情けない声をだした俺に、やたら爽やかな笑顔が返ってきた。 まったく・・・この人は。 「で、どうなんだ。大神たちの様子は?」 「・・・はあ。異常ないです。」 今回俺たち月組に与えられた任務は、夏休みの慰安旅行中の花組を影から護衛すること。 海、山、温泉と三組に分かれた花組に合わせ、こちらもそれぞれ二人一組で周囲の警戒をしている・・・のだが。 (すみれさん・・・。) 双眼鏡の視界の中で、普段とは少し異なった笑顔を見せる彼女。露出度の高い水着に包まれた、美しい肢体が目に焼き付く。 できることなら俺も・・・ ガンッ!! 「だから・・・仕事を忘れるなといってるだろう。」 思わず自分の世界に入り込んだ俺を、隊長の非情のギターが呼び戻す。 「・・・。」 「・・・ん?どうした十六夜?」 「・・・カド。」 「おおっ!すまんすまん。はっはっは。」 「すまんじゃないですよ・・・まったく。」 くらくらする頭を抑え、監視を続けようとした時。突然隊長から声がかけられた。 「十六夜、よく聞け。人にはそれぞれ役割というものがある。我々月組は、花組のかわりに前線にたつことはできない。風組のように直接手助けができるわけでもない。 しかし我々には、我々にしか出来ないことがある。 花組を影から守り、助け、戦闘以外の危険をできる限り減らすこと。これは、他の誰でもない、我々にしか出来ない仕事なんだ。 人が人を好きになるというのは、とても素晴らしいことだと思う。 だが、己の心に溺れて大切なことを見失うようではいかん。 十六夜!この大海原のような広く大きな心を持て!お前はそれができる男だ!!俺は信じているぞ!!」 「隊長・・・」 普段の態度からは想像もつかない真摯な言葉に、俺の心は激しく揺さぶられた。 そうだ、いまの俺の任務は花組隊員の護衛。 ここにいるのは、すみれさん一人ではない。レニがいる。アイリスがいる。大神隊長もいる。 私情に溺れて任務を放棄すれば、加山隊長の信頼を裏切ることになる。なにより、すみれさんに会わす顔がない。 (ごめんよ、すみれさん。いまは君だけを見てはいられない。・・・でも、わかってくれますね。) 心の中で彼女に語りかけたその時。 「・・・きゃっ・・・」 !すみれさんの叫び声!!まさか黒鬼会か!? あせりのあまり、双眼鏡の視界がブレる。 落ち着け! ようやく安定した視界に写ったのは・・・ 裸の胸を抑えたすみれさんと、水着をもって立ち尽くす大神一郎だった。 「・・・・・・。」 ぷちっ 「ぬがあああぁぁ〜〜〜〜っ!大神ぃ!! 殺すっ!ぶっ殺してやるぅっ!!」 「落ち着け!ばかもの!!」 ぐげしゅっ!! ぱたっ・・・ 「・・・あれっ。十六夜?お〜い、しっかりろ〜。」 強烈な一撃に意識を失う寸前、困ったような隊長の声が聞こえてきた。 「やっぱり、フルスイングしたのはまずかったかな?」 ・・・だからギターはやめてくださいよ〜〜〜。 その後、実際に黒鬼会の襲撃があったようだが。その日の内に、帝都に送り返された俺には関係のない話だった。 とほほほほ・・・。 (完) |