貴方の心に 触れしとき 胸に春雷 鳴り響く 晴れ間を知らず 降る雨は 苦悩も悲哀も 愛とかえる 「うわー、まいったな。いきなり降り出しましたね。」 「どうしようかしら。傘持ってこなかったわね。」 「あれだけ天気が良かったんです、誰だって雨が降るなんて思いませんよ。」 「そうよねぇ。あんなに青かった空が、今は灰色一色だもの。やな色の雲だわ・・・」 或る春の日の午後。 買い物に出かけた加山とかえでを迎えたのは、突然の雨。 それまで晴天で、暖かい春の日差しを讃えていた空は、様相を一変し重厚な積乱雲を張り巡らし、辺りの風景すべてを灰色の世界へと変えていた。 突風が吹き、雨が霧のごとく空中に舞う。 もはや、傘を持っていたとしてもその用途を果たせなかっただろう。 その日帝都には、春の嵐が吹き荒れていた。 そんな中、二人は避難場所を探して、雨の中を走っていた。 春の生温い雨が、二人の体に容赦なく降り注ぐ。 「いやねぇ、なんだか段々と雨風が強くなってきたわ。」 「早く雨宿りできる場所を探さないと!まだ走れますか?かえでさん。」 「ええ、大丈夫よ。」 「あ!あの店の軒先を借りましょうか!」 そういって加山は、すでに閉店している八百屋らしき店を指差した。 「そうね、もう閉店しているようだし。軒先にいても邪魔にはならないわね。」 「さ、急ぎましょう!」 二人は全速力で軒先へ駆け込む。 しかし、もうすでに手遅れというほど二人はずぶ濡れになっていた。 「っかー、随分と濡れちゃいましたね!」 「本当、もう中までびっしょりだわ。」 かえでは、すでに濡れているハンカチを絞りながら、濡れた服を拭いている。 なにげに、加山はそんなかえでの姿に目をやる。 ずぶ濡れに濡れたかえでの洋服は、そのからだに張り付き、滑らかで美しいかえでのからだの曲線を見事に現していた。 そんな自分の体を、丹念に拭うかえで。 「・・・・・・・・・・何を見てるの?加山君」 「あ、いや、その・・・ごめんなさい!副司令!」 「まったく、もう・・・・・・・・・」 軒先に立つ二人の間に、しばしの沈黙が流れる。 この春の嵐の中、二人を除いて、街を行く人影は見あたらない。 人の気配が消え去り、どんよりとした雰囲気を漂わせる街並。 静けさが、そんな街並を一層寂しくしていく。 耳に聞こえてくるのは、吹きすさぶ風と降り注ぐ雨の音だけ。 「・・・あ、加山君。先日の戦闘での花組への支援、実に見事だったわ。」 「いえいえ、あれは米田長官の的確な指示があってこその結果です。」 「ふふ、謙遜しちゃって・・・」 「いや、ははは・・・」 「・・・・・・・・・・・・。」 「・・・・・・・・・・・・。」 「・・・それにしても、寒いわねえ。」 「そうですね・・・いくら春とはいえ、濡れた体にこの強風は堪えますね。」 「ほんとよね・・・・・。」 「せめて、風ぐらいは止んでくれるといいのですが・・・。」 「・・・・・・・・・・・・。」 「・・・・・・・・・・・・。」 「「あ、そういえば・・・」」 「あ、なあに?加山君・・・・・。」 「あ、いえ、かえでさんの方こそ・・・・・。」 「いえ、私の話は大したことないのよ。」 「僕の話も、どうでもいい事で・・・・・。」 「・・・・・・・・・・・・。」 「・・・・・・・・・・・・。」 「・・・服が濡れていると気持ち悪いわね。」 「ほんとに。なんだか重いですし・・・・・。」 「・・・・・・・・・・・・。」 「・・・・・・・・・・・・。」 そうしてまた、沈黙が二人を包む。 その場に、ぎこちない会話の名残りが漂っている。 そんな時だった。 「あら?なにやら雷の様な音が聞こえない?」 「え?あ、そう言われれば・・・春雷ですね。」 「ええ。でも結構遠いみたいね。良かった。」 「そうですね。」 遥か遠くに、春雷が響く。 空には時折、閃光が走っていた。 「春雷か・・・いよいよ春の訪れですね。」 「そうね・・・あ、もしここにさくらがいたらどうなったかしら。」 「きっと、この雨の中を一目散に走って行くでしょうね。あははは。」 「うっふふふふっ。」 「あっはっはっは・・・・。」 「んふふふ・・・・・。」 「・・・・・・・・・・・・。」 「・・・・・・・・・・・・。」 「でも・・・・・。」 「・・・・・・?」 「こうしてみると、稲妻が綺麗ね・・・。」 「ほんと、綺麗ですね・・・・・。」 「光が・・・雲を走っていくわ・・・。」 「・・・・・・・・・・・・。」 また、沈黙が漂う。 軒先にて、ただただ遠くの春雷を見つめる、びしょ濡れの二人。 加山は、何気なくかえでに視線を移す。 その視線を感じたのか、加山の方を向くかえで。 二人の視線が、春の嵐の中で絡み合う。 互いの距離は、縮まらない。 互いの体に、振れることもない。 ただ、互いの濡れた体を視線で抱き締めあう。 強く、激しく。 もはや、二人の耳に、春雷の音は聞こえない。 閃光は、そんな二人を明るく照らした。 一瞬、辺りが白くなる。 見つめあう二人も、時折白く輝いた。 そうして、どれくらい時間がたったのだろうか。 春雷は、遥か彼方へ消えていった。 雨も風も、少しづつおさまってゆく。 二人っきりの時間が、そろそろ終を告げようとしていた。 「・・・・・あ、そろそろ帰れそうね・・・。」 「・・・・そうですね・・・雨も随分と小降りになりましたし・・・。」 「・・・・・・・・・・。」 「・・・・・・・・・・。」 そして、再び二人は帝劇を目指し歩き出す。 その背中は、どこか、この軒先での時間を憂いているかの様だった。 あの、心にも春雷の鳴り響く、熱い時間を・・・。 終 |