キレイナオハナ


ある、とてもとてもよく晴れた日の朝の事です。
アイリスはいつものように自室の鏡の前にいました。
念入りに今日の自分の姿をチェックしています。

「リボンよし、お洋服よし。うん、今日もかわいい!ねっジャンポール?」

アイリスはとても満足そうです。
そして友達のジャンポールを抱えると
足取りも軽く自室を出て、1階へと降りていきました。
ふと中庭に目をやると、大好きな大神さんの
姿が見えます。

「お兄ちゃぁぁぁん!!」

思い切りの笑顔で大神さんへ走り寄っていきます。

「あ、アイリス。おはよう。」

「おはようお兄ちゃん!ねぇねぇ、アイリス今日もかわいい?」

「ああ、とってもかわいいよ。」

「キャハ!ありがとうお兄ちゃん。ところで、朝から中庭で何をやってるの?」

「うん、トマトの苗に水をあげていたんだ。アイリス見てご覧、かわいい花が咲いてるよ。」

大神さんは、トマトの苗の所々に咲いている、
それはそれは小さな白い花を指しました。

「お花?このちっちゃいやつぅ?」

「そうだよ。かわいい花だろう?」

「ええぇ?なんだかちっちゃくってあんまりかわいくなぁい。」

「ははは、たしかに地味かもしれないね。アイリスは大きくてカラフルな花の方が好きかい?」

「うん、アイリスその方がいい。」

「そうか、たしかにきれいだよね。」

そういうと大神さんは背を屈めて、トマトの花を
いとおしそうに見つめてこういいました。

「でもね、このトマトの花がなぜ小さくて地味かというと、
おいしくて栄養満点のトマトを作ろうとしているからなんだよ。自分はどんなに小さくても地味でもいいから、その分の
栄養をトマトの実の方へ送ってやりたいってね。」

「ふ〜ん・・・」

「わかるかい?アイリス」

「う〜ん・・・アイリスだったらもっと大きいお花を咲かせちゃうけどなぁ・・・」

「あはは、そうかそうか。」

アイリスにはトマトの花の気持ちがあまりよく
わかりませんでした。

「あ、そうだ。これからトマトの苗をもっと日当たりのいい場所へ移してあげようと思うんだけど、アイリスもやってみるかい?」

「えぇぇ?お洋服が汚れちゃうから、アイリスやめとくよ。」

「そうか、それじゃあまた遊ぼうね。」

「うん、またねお兄ちゃん!」

アイリスはジャンポールと共に、
中庭をあとにしました。

「そうだジャンポール、プールにいこうか。」

階段を降りて地下へ入ると、格納庫の方から
何やら音がします。

「・・・こんな朝早くから誰だろうな??」

格納庫の方へ静かに入っていくと、
そこには油とホコリに塗れた紅蘭の姿がありました。
汗ビッショリで、おさげ髪もボサボサです。
それでも紅蘭は、一生懸命花組全員の光武の
整備をしています。

「紅蘭、こんな朝早くから整備してたんだ・・・」

アイリスは自分が使う時、いつもピカピカに
なっているのを思い出しました。
紅蘭は、いとおしそうに光武に語り掛けています。

「ホンマ、いつもいつもありがとなぁ。ウチが今、最高の状態にしたるさかい、待っててやぁ。」

「・・・紅蘭・・・・・・。」

その紅蘭の顔を見たアイリスは、いろいろ
思い出しました。中庭でトマトのために泥だらけ
になる大神さん、大神さんの教えてくれたトマトの
花のお話、そのトマトの小さくて白い花・・・
そして、すべてを思い出したあと、
きれいに着飾った自分の姿をもう一度眺めます。

(・・・・・なにか、違う・・・・・)

「・・・・・・・・・・・・・・!!」

アイリスは困惑の表情でジャンポールをギュッと
きつく抱き締め直すと、思い出したかの様に
自室へ走って行きました。
部屋に入ったアイリスは、おもむろに洋服ダンスを開け
その中で一番の古着を出すと、今まで着ていた
きらびやかな洋服を脱ぎ捨て、その古着に
着替えました。
そして、りんとした姿勢でその姿を鏡に
映します。

「・・・・・結構似合うよね?ジャンポール・・・」

ただ黙ってアイリスを見つめるジャンポールを
やさしく抱き上げると、中庭へと
降りていきました。
そこには、泥だらけになってトマトの苗を
移動している大神さんがいます。

「お兄ちゃぁぁぁん!!」

「あれ?アイリス?あ、どうしたんだい?その格好。」

「アイリスねぇ、お兄ちゃんのお手伝いにきたの。手伝ってもいい?」

「え?ああ、もちろんだよ。」

アイリスは大切そうにトマトの苗の根を
掘っていきます。
その顔には、大神さんと同じように泥がついて
しまいました。

「アイリス、顔に泥が・・・」

アイリスの顔を拭こうとした大神さんの手を
軽く止めました。

「平気だよ、べつに。」

その表情は、とてもさわやかでした。

「・・・・・・・・・ねぇお兄ちゃん?」

「なんだい?アイリス。」

「アイリス、トマトの花の気持ち、ちょっとだけわかった気がする・・・」

「・・・・・・うん、そうか。・・・」

「・・・・・ねぇお兄ちゃん?」

「なんだい?アイリス」

「へへぇ、アイリスかわいい?」

すると大神さんはやさしく微笑みながら
答えました。

「ああ、とてもかわいくて、とてもキレイだよ。」



ある、とてもとてもよく晴れた日の朝の事でした。



fin・・・



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