2、腹が減っては戦は出来ぬ。まず食事に行ってきます。

陸軍本部から私服に着替えてシャンゼリゼ通りを目指す大神。
穏やかな春の日差しが気持ち良い。
しかし、この街にも・・・・平和を乱す者達が潜んでる。
そしてその機会を虎視眈々を狙っている。決して油断は出来ないな・・・。
そう思った矢先。

「ふえ〜〜〜〜〜〜〜ん!」
「なぬぅ!?」

聞きなれた日本語。それ以前に聞きなれたこの声は・・・・・。
間違えようはずも無い。高村椿嬢その人である。

「あっ、大神さん、会えて良かったですぅ。」
「一体どうしたんだい?」
「この人達、言葉が通じないんですよぉ。発音が悪いのかなぁ・・・・」
「ちなみに何語で話かけたんだい?」
「もっちろん、海外だったら英語に決まってるじゃないですかぁ♪」
「・・・・・つ、椿ちゃん?」

相手が紅蘭だったらツッコミをいれていた所だろう。
しかし、ここは冷静に対応した。

「テヘ☆あたしったらてっきり勘違いしちゃって、なんか恥ずかしいですぅ。」
「フランス人は母国語をすごく大切にするから気をつけないとね。」
「あっ、あたしも江戸弁なら得意なんですよぉ。べらんめぇ♪寿司くいねぇ♪あたぼうよぉ♪」
「・・・ハハハ、分かった分かった。じゃ、一緒にお昼を食べようか。」

近くのカフェに入り、注文を頼む。
ほどなく、トーストとカフェオレが運ばれてくる。
さすがに東洋人は珍しいらしく、店内のあちこちから視線が飛んでくる。

「へぇ〜〜、これがフレンチトーストですかぁ・・・」

くりっとした目をさらに見開いてまじまじと見つめている。
そして、カフェオレを一口。

「うわぁ、さすがは本場って感じですねっ♪」

ご満悦の椿をよそにぱっとしない大神の表情。
それまで夢中で食べていた椿もはたと気がついて問い掛けてみた。

「あれ?食べないなら、あたしが食べちゃいますよぉ?あ、でも食べ過ぎには気をつけなきゃ。太って日本に帰るなんて恥ずかしい、キャ☆」
「・・・・ハハハハ。」
「本当にどうしたんですか?帝劇ではカンナさんと食べ比べるほどの大神さんが。」
「いや、なんか、すでに日本食が恋しくなってきちゃってね・・・。」

事実、フランス行きの船の中の食事は洋食であったので、しばらく日本食を口にしていなかった。
船旅ゆえ、日本を立ってから十数日が過ぎていた。
航海演習の際は自国の船だったので米、味噌なども持参だったのだが・・・・。

「うふふふふ。そうだろうと思って持ってきておいたんですよぉ。」
「え?」
「食べられますよ、お米♪」
「でも、どこに?」
「そ・れ・は♪」

にこにこしながら巾着袋をあさる椿。

「じゃぁ〜〜ん☆」
「お煎餅!?」
「実家から持ってきておいたんですぅ。良かった、役に立って♪」

形は違えど、お米には違いない。
大神は拡大解釈とばかりにお煎餅を食べ始めた。
お米と醤油が奏でるハーモニーが大神を虜にしていった・・・・・・。

「ああ・・・・・お米はいいなぁ〜〜〜♪」
「大神さん、それじゃ加山さんみたいですよぉ。」

ふと我に返った大神と椿の周りを珍しそうにフランス人達が囲んでいる。
彼らの食しているものが、さぞ不思議に見えたらしい。
大神が通訳している脇で椿の瞳が輝いた。

「こっ、これは・・・売り子としての血がさわぐわっ!!」

・・・数日後、高村煎餅店巴里支店がシャノワール内に誕生した。
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