「加山は薔薇組から逃げきっただろうか・・・」 自分のしたことをたなにあげて、大神はうつろに帝劇内をうろついていた。 加山のもっている「アレ」を見られないと仕事にもならない。しかし加山にそれを頼めない今、自分になす術はない。 「はあああ・・・」 「大神は〜ん。どうしたんや辛気くさい顔して。」 声をかけてきたの紅蘭だった。 すかさず笑顔をつくるが、紅蘭はお見通し、と言わんばかりに言葉を続ける。 「さては米田はんに絞られたのが、よ〜っぽど効いているみたいやな。」 「ま、まあね。」 「キネマトロンにハマっとるんやな?」 「そ、それは・・・」 事実だった。紅蘭の発明品の中で、数少ない成功品、キネマトロンはまさに文明の利器だった。 通信以外にも、さまざまな情報にあふれている娯楽の新たな幕開けといえた。 大神は就寝時間を過ぎてなお、キネマトロンに聞き入っていた。 「図星やな?」 「ははは・・・恐れ入るよ。」 「う〜ん、かといって、キネマトロンは大事な通信手段やから使えんようにするわけにもいかんし・・・」 右手をあごに軽く当て、紅蘭が少し考えむ。 「ま、解決にはならんやろけど、せめて寝坊せえへんように協力させてもらうわ。」 「ありがとう、紅蘭。」 「さ〜て、発明発明っと。ほな、大神はん、またな〜。」 限りない不安を胸に見送る大神。 ほどなく天井から気配がおりてきた。 「お・お・が・みぃ〜。俺は不幸せだなぁ〜〜〜〜(涙)」 「か、加山!」 「俺のことを話したな、大神。」 「す、すまん!ついその・・・」 焦る大神を制して加山が続ける。 「心配するな、大神。こう見えても地元和歌山では”月夜の雄ちゃん”として名を馳せたこともある。」 「月夜の・・・雄ちゃん?」 「かくれんぼをすると、夜まで絶対見つからなかったのでそう呼ばれ、恐れられた。」 「・・・・・・」 「あまりに見つからんので警察に捜索願いを出されることも度々あったがな。それもなつかし〜い思い出だ。」 と突如、加山の表情が一瞬真剣になった。 「どうした?加山。」 「薔薇組の気配がする。それではさらばだ!とぉ〜〜うっ!」 「あっ、待ってくれ加山!あらためて頼みが・・・」 「心配するな、大神。お前との友情は・・・永遠だ。」 なにかツッコミしたかったが加山の気配はすでに無く、大神は自室に戻ることにした。 大神はとぼとぼと部屋に戻っていこうとした。 階段を二階へとあがる。 ふと見上げると、廊下の陰から巨○の星の明子ねえちゃんの様にひょこっと顔を出し、こちらを見つめている。 「うふふふっ。」 「さくらく・・・あれ?」 どうしたことか、さくらはパタパタと部屋に向かってしまった。 思えばさくらの視線は首の辺りに向いていた様な気がする。 「なんか、ボタンでもほつれていたのかな?」 直さなきゃ、と思いながら自室に入った。 そのころ、マリアとカンナは遊戯室でビリヤードに興じていた。 「しかし、いったい隊長はどうしたのかしら?」 「う〜ん。でも隊長のことだ、きっと秘密の特訓をしてるんじゃね〜のか?」 「でも、それじゃ本末転倒よ。特訓はいいけど、いざという時に何も出来なくては意味がないわ。」 「そうだよなぁ・・・」 「あら、なにを悩んでいるかと思えば・・・」 すみれが割って入った。 「何か知ってんのか?」 「どうなの?すみれ?」 「簡単至極ですわ。少尉は毎夜、このわたくしのことを思っているのですわ。ああ、美しさって罪ですのね・・・」 「馬鹿か、てめぇは!」 「おっしゃいましたわね、山ザル!」 「二人とも、やめなさい!」 たまらずマリアが止める。 「しょうがないじゃありませんの。」 「えっ・・・」 「少尉がお話してくれない以上、わたくしたちが何を詮索しても無駄ですわ・・・」 寂しそうに部屋を出るすみれ。 部屋を出るその瞬間。 すみれの目の前を白いスーツの男が走り去っていった。 その後を、先日の薔薇組とやらが追いかけていった。 「お待ちになって、加山さんっ!」 「照れていないで、私の熱ぅいチュウを受け取ってちょうだぁ〜〜いっ!」 「ふ、二人とも待って・・・、あ、すみれさん。すみませんお騒がせして・・・。あ、待ってください〜〜〜!」 呆気にとられてしまった。すみれはよく見かけるあの男が加山という名だと言う事だけ記憶にとどめておくことにした。 再び大神の部屋。だれかが扉をノックする。 「大神は〜ん。おまちどうさま〜。」 「紅蘭か。いま開けるよ。」 その顔に満面の笑みを浮かべ、右手に新発明を持って意気揚々と紅蘭が入ってくる。 「これがうちの新発明、「めざましくん」や!」 「めざましくん?」 「うちがまだ神戸にいた頃につくった蒸気時計の改良版なんや。」 それを聞いて少し安心した。にこやかに大神が応対する。 「じゃあ早速使い方を教えてくれないか?。」 「まあ、ちょい待ち。これの凄いところは、なんと霊力併用型なんや!」 「おおっ。このサイズでそんな機能が!?」 「そうなんや、こいつには難儀したで。」 「わざわざありがとう、紅蘭。」 「へへっ、ほな説明しよか。」 簡単な説明がされた。もちろん普通の時計とそう変わることはなかった。 「で、時間のセットの時に霊力をちょっと拝借するようになってるんや。」 なるほど、大神がボタンを押す時に、小さな光が手のひらから時計に吸い込まれていった。 これがセットした時間になると反応するのだという。 「ここまでは大丈夫やな。」 「ここまでは・・・?」 「い、いや、なんでもあらへんのや。気にせんといてや〜。」 そそくさと帰っていく紅蘭。 十分気になったが仕方ない。 大神は覚悟を決めた。 そしてその晩。 いつも通りに夜の見回りを終えて自室に戻ってきた大神は、ここ最近の習慣のようにキネマトロンのスイッチを入れた。 音声のみだが、ある放送が飛び込んでくる。 「え〜、そんなわけでね、今日もほう・・そうを・・えぶしっ!うあ〜、風邪が相変わらず直らなくてね〜。え〜、放送をお送りしますよ〜。今日もまた採用された葉書の・・中から・・・えぶしっ!!葉書の中から抽選で5名様に、ここでしか手に入らない特製の花組ポスターをプレゼント!さあ奮って葉書をじゃんじゃん送ってくださいよ〜。別に焼き肉のタレを送らなくていいからね〜、うん。それはモランボンのジャン!な〜〜んちって。ギャグが新しすぎた?ま、なんつ〜ことをいってるあいだにタイトルコールいきますか! 千葉助のオールナイト帝都!」 大神がつぶやいた。 「今日こそ、今日こそ当たってくれ!」 放送の面白さもさることながら、この限定花組ポスターが大神のお目当てらしかった。 「加山だけにいい思いはさせん!しかしあいつどんなペンネームを・・・あっ!」 大神は思い出した。そういえば常連投稿者の中に「月夜の雄ちゃん」がいたことを。 「そうか、あいつが月夜の雄ちゃんさんだったのか」 思わず”さん”をつけてしまった。 と同時にますます加山の生活ぶりに疑問が涌いてきた。 やがて夜は更けて・・・・・・ 帝都に朝が訪れようとしていた。 間もなく動き出そうとしている帝劇に、爆発が巻き起こる! 「ちゅどどどどど〜〜〜ん」 隊長室の窓ガラスがふっとぶ。 もしや・・・敵襲? みんなが隊長室の前に集まる。もちろん織姫は例外だった。 「隊長!何があったのですか!」 「大神さん、大丈夫ですか!?」 必死に大神を呼ぶ一同。 そして、ドアを開け大神が顔を覗かせる。 と、同時に笑いが巻き起こった。 「きゃははは、お兄ちゃんドリフの雷様みた〜〜い。」 「アイリス、逆時代錯誤のギャグはやめなさい。」 止めるマリアの口元にも笑みが浮かんでいる。 真っ黒焦げの大神がそこに立っていたのだ。 「さすが大神はんやな。」 笑いから立ち直り紅蘭が言った。 「紅蘭・・・何か知っているの?」 「大神はんにな、うちの試作品を使ってもらったんや。」 「試作品?」 「そう、霊力併用蒸気時計、「めざましくん」や!」 アイリスが続けて聞く。 「それをつかうと、ドリフの雷様になるの?」 「アイリス!」 「セットした時間になると、込められた霊力を一時的に増幅させて軽〜く爆発させるんやけど・・・」 「大神さんの霊力が大きすぎたのね?」 「ま、そうゆうこっちゃ。」 「わ〜、お兄ちゃん、すごいすご〜〜い!」 「爆発したけど、成功した発明だったんだね。」 「そうやレニ、え〜こと言うようになったな〜。」 「成功って言うのかなぁ〜」 カンナも苦笑いしていた。 薄れゆく意識の中で、これが戦力強化になるなら・・・それもまた良し か・・・と、大神は思っていた。 大神はこのあと、さくらとカンナの手によって集中治療室に運ばれていった。 幸い回復は早かったのが救いであった。 そしてこの霊力増幅システムのデータが天武の開発の最終調整に役に立ったとか立たないとか。 その頃、顛末を聞いた米田が一升瓶を傾けながら支配人室で誰に言うでもなくつぶやいた。 「そろそろ大神の葉書も採用してやるとするか。」 そして、加山はまだ無事らしい。 <<劇終> |